『べらぼう』は脚本家・森下佳子の集大成 『だから私は推しました』に重なる“推し”との関係

『べらぼう』は江戸時代の“推し活”を描く

 だが、何より本作を観ていて思い出すのが、NHKの「よるドラ」枠で放送されていた、地下アイドルとオタクの内幕をサスペンスタッチで描いた『だから私は推しました』だ。

 吉原の女郎と客の関係は、推し(アイドル)とオタクたちの関係のようで、吉原と女郎を売り出そうとする蔦重はアイドルのプロデューサーや運営のようでもある。

『だから私は推しました』ダブルミーニングの作品名が意図したもの 森下佳子が仕掛けた“真実と嘘”

暗い世界をアイドルという光が照らし、その光に手を伸ばし続ける人々もまた、彼女たちを照らすサイリウムの光で輝いている。淡く暗く煌く…

 おそらく、江戸時代の「推し活」として吉原の内幕を描いているのだろう。

 『べらぼう』を観ていると過去に森下が手掛けた過去作が頭に浮かぶ。

 前述した『JIN-仁-』を筆頭に様々なヒットドラマを手掛けてきた森下だが、民放のプライムタイムで手掛けたドラマとNHKドラマを比べると、前者は万人が楽しめる職人的な作品を志向しており、後者の作品は森下の作家性が色濃く出ている。

 今回の『べらぼう』はそんな森下作品の集大成となりそうで、民放ドラマでは抑制されていたポップで下世話な語り口と、悪趣味スレスレの残酷描写が自由自在に展開されている。

 このような自由な作品が深夜枠ではなく、大河ドラマという朝ドラと並ぶ看板枠で展開されていることが、他局にはないNHKの強さだ。

 吉原を取り巻く複雑な権力構造に翻弄される蔦重は、江戸のメディア王としてどのような文化闘争を仕掛けていくのか。そして女郎たちの哀しみはどのように描かれるのか? この一年が楽しみである。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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