『だから私は推しました』ダブルミーニングの作品名が意図したもの 森下佳子が仕掛けた“真実と嘘”

『だから私は推しました』ダブルミーニングの作品名が意図したもの 森下佳子が仕掛けた“真実と嘘”

 暗い世界をアイドルという光が照らし、その光に手を伸ばし続ける人々もまた、彼女たちを照らすサイリウムの光で輝いている。淡く暗く煌く海のような物語は、暗さに慣れてしまった側にとっては明るすぎるぐらい明るい空間を生きることができるようになった、それぞれの人生を示すことで清々しい終わりを迎えた。

 NHKよるドラ『だから私は推しました』が終わった。『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告る。』に続く、若手スタッフ・出演陣による挑戦的なドラマ枠第3弾である。保坂慶太ら若手演出陣の鋭く、遊び心のある演出やカメラワークの面白さに目を奪われながらも、『おんな 城主直虎』(NHK総合)や『義母と娘のブルース』(TBS系)を手がけたベテランであり、深夜ドラマの脚本を初めて担当した森下佳子の手腕が光った。

 このドラマは、地下アイドルとオタクの、危うささえある深い関係性を示すことによって、誰かを「推す」ということ、誰かを心から大切に思うことの素晴らしさを描いた。それは、桜井ユキ演じる地下アイドルにハマるヒロイン・愛と、白石聖演じる、愛が夢中になる地下アイドル・ハナという2人の女性の出会いを通した成長だった。

 それと同時に、SNSの普及により自己表現の可能性が増えていく一方で、承認欲求に飢え、疲れきった現代人を描くと共に、やりがい搾取問題やストーカー問題など地下アイドルを取り巻くシビアな現状も描く社会派ドラマの一面もある。そして何より面白かったのは、タイトルのダブルミーニングにもなっている、最終的に「だから私が押しました」となってしまった本当の理由を巡るサスペンスの要素である。その際たる魅力は、「入れ替わる」ことにあった。

 ハナは嘘をつく時、瞬きをする癖がある。この事が明らかになるのは、愛がハナにそのことを指摘する終盤の6話であるが、2話、5話でハナが嘘をつく場面において、彼女の瞬きが示されると共に、過去を示すショットが挿入される。特に5話の「いじめられていた」エピソードを彼女が語る場面における過去の映像は、「ハナが松田杏子(優希美青)を無視する/松田杏子がハナを無視する」という2パターンが交互に示されることで、彼女が頭の中で都合よくすり替えてしまった真実と嘘を、視聴者に前もって呈示しているのである。

 この「瞬き一つでいとも簡単に転換してしまう真実」という構造は、そもそもの前提を崩す終盤の大どんでん返しに繋がった。7話終盤で、「あなた嘘ついてますよね」という刑事(澤部佑)の言葉を契機に、それまでの瓜田(笠原秀幸)が突き落とされるまでの映像が逆回転して戻っていく。そして、「だから私が押した」のは、愛ではなくハナのほうだったということが最終話で明るみになるのである。

 最後の最後で愛とハナが入れ替わる。タイトルのダブルミーニングは「推した」愛と「押した」ハナを示していることがわかる。つまりこの物語は愛とハナ2人の物語。これは、事件の真相に関わることだけでなく、「推す人/推される人」、「コールする人/レスポンスする人」という彼女たちの関係性も簡単に変換可能であり、一方的に与える/与えられる関係なのではなく、相互補完的な関係なのだということを示しているのである。

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