『御上先生』から“新しい日曜劇場”へ 『半沢直樹』『VIVANT』ら歴代作品からの変化を読む

日曜劇場『御上先生』(TBS系)が好調だ。「教育の再構築(リビルド)」をメインテーマに掲げ、文部科学省から私立高校に出向してきた官僚・御上孝(松坂桃李)が教壇に立つ姿を描く。
『御上先生』は従来の学園ドラマと異なり、教師が生徒に自分の考えを押しつけることはない。ティピカルな不良生徒や問題教師も登場しない。ドラマ全体にはミステリー要素がいくつも配置されているが、全体的に静謐な雰囲気が漂っている。
このドラマの最大の特徴は、教師の御上がエリートを自負する生徒たちと対峙しながら、さまざまな問題を考えさせていくところだ。たとえば、生徒の一人、神崎拓斗(奥平大兼)が作った新聞が教師の不倫を報じ、その結果、女性教師の冴島悠子(常盤貴子)だけが学校を辞めるという事態を引き起こしたが、御上は神崎を咎めたりしない。事態の何が問題かを気づかせ、考えさせ、行動させて答えを見つけるように仕向けていく。

御上は常に生徒たちに向かって「考えて」と投げかける。生徒たちが主体性を持つことを何よりも大事にしているのだ。ひとつのクラスの雰囲気が変われば、やがて蝶の羽ばたきが大きな竜巻を巻き起こし、教育や政治や社会全体を変えていくこともある。後半に向かってどのような展開を見せていくのか楽しみだ。
『御上先生』を観ていると、伝統ある「日曜劇場」が新しいフェーズに入ったことを強く実感する。
1956年から始まった「日曜劇場」(当時は「東芝日曜劇場」)は、一話完結の女性向けホームドラマを流す枠だった。それが大きく変わったのは1993年のこと。『丘の上の向日葵』を皮切りに連続ドラマ枠となる。連続ドラマ枠になった当初は、中高年男性を慰撫するようなテーマの作品が多く、小林薫、田村正和、萩原健一らが主演を務めた。
2000年、再び大きな変化が起こる。木村拓哉主演の『ビューティフルライフ』が平均視聴率32.3%を記録する大ヒットしたのを契機に、同枠は若い世代に向けて、中居正広(『白い影』、『砂の器』、『ATARU』など)、堂本剛(『ガッコの先生』、『元カレ』)、草彅剛(『猟奇的な彼女』、『冬のサクラ』)など、旧ジャニーズ事務所所属のタレントが主演するドラマが激増する。
“昭和おじさん社会”は終わる!? 『半沢直樹』が描いた古い男性像と新しい女性像を振り返る
圧巻だった。ソーシャルディスタンスが提唱される中、『半沢直樹』(TBS系)では役者たちが至近距離で顔を突き合わせ、最後の最後まで…
その潮目が変わったのは、2013年の『半沢直樹』だ。それまで経済ドラマはヒットしないとされていたが、最終回は42.2%を記録。社会現象と言われるほどの大ヒットとなった。ここから「日曜劇場」は池井戸潤原作作品をはじめととした、男性向け勧善懲悪ビジネスドラマが主流となっていく。志と正義感がある主人公が、邪魔をするライバルやライバル企業を退けて、最終的に成功を掴むというのがひとつのパターンだ。主人公が大きな声で正論をたたきつけて敵対する相手を打ち負かすシーンが名物となり、視聴者はカタルシスを得るようになった。「日曜劇場」が月曜日から仕事が始まるサラリーマンの活力になっているとさえ言われていた時期もあった。