いま映画館に求められるものとは何なのか? Strangerと早稲田松竹の編成担当が語り合う
![Stranger×早稲田松竹、映画館編成担当対談](/wp-content/uploads/2025/02/20250208-uedasuzuki-00003.jpg)
「映画館」の形こそが映画を観るのに適した形
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——劇場の体験性についてもお伺いしたいと思います。いまやボタン一つであらゆる作品を視聴できる時代になりましたが、それでもやっぱり映画館で鑑賞すること、とくに配信されていない映画を上映することについてはどうお考えですか?
鈴木:私も自宅のテレビで映画を観ることはありますが、それだと単なる消費になってしまうような感覚があります。映画館で観るほうが、前後に何をしたかといったことまでも含めて、体験として圧倒的に記憶に残ります。自分で作品を選ぶときも「これは映画館で観てほしい」という思いを明確に持っていて、できれば配信もされていない作品がいいと思っています。これまでにあまり上映される機会がなかった作品に対して「実はこんなにいい映画があるんだよ」と多くの人に知ってもらいたいし、あるいはそれがいい映画かどうかもわからない状態でも観てもらいたいなと、最近は思うようになっています。
——作品を観る前提で選定するとなると膨大な量になると思いますが、お二人はそれに対してどのように折り合いをつけていらっしゃいますか?
上田:自分で選んだ作品に関しては目を通していますが、選ぶ前にどういうふうに絞るかというと、やっぱり過去の資料や批評文からある程度絞った範囲の中で鑑賞します。逆にたとえば「この監督を特集しよう」と思ってその人の作品を全部観てから考える……というのはさすがに難しいですね。
鈴木:そもそも素材的に観ることができない作品もあるので、まず物理的に上映できるものの中から選ぶことにはなります。あとはやっぱり映画好きの知り合いが多いので、みなさんからオススメされると自分でも観てみようかなと思えるので、そういう情報収集は結構まめにしているかなと思います。
——そこは家に一人でいるだけでは物理的に不可能なことですよね。また、サブスクリプションの作品リストを見ても自分で何かを選ぶのは大変だったりするので、「この映画館でいまこれがオススメされてます」というサジェクトのされ方は、ある意味昔より今のほうが価値あることなのかもしれません。
上田:やっぱり映画館というのは、映画を観るのに適したかたちで開発されていることを忘れてはいけないなと思います。家で一人で観るというのが一番優れた形であれば、その視聴方法だけが残っていくはずであって、そうではなく自分の身体よりも大きいスクリーンで、複数人で作品を観るという手段が残り続けているのには何か理由があると思うんですよね。たとえば音響の良さを指摘する人はたくさんいますし、もっとも大きい音がどういうふうに自分に影響を及ぼしているのかは正確にはわかりませんが、それによって感情が動いたり記憶のされ方などが変わってくるようなことは実際にあります。だから「映画館」の形こそが映画を観るのに適した形なんだなと、一周して素直に思っているところです。
——今のスマホネイティヴ世代、10代〜20代前半の若者たちがミニシアターで映画を体験しているのを見てどう思いますか?
鈴木:Strangerは他の映画館より若者が多いのではないかと思います。学割のような形で年齢によって割引も設けていて、そこは文化スポットとしてなのか、ファッション的なスポットとしてなのか、目的はわかりませんが写真を撮りにくるような方も多いので、一つの“映えスポット”として来てもらっている部分もあるのかなと思います。
上田:DCPでのリバイバル上映をしたときに感じたのは、たとえばシャンタル・アケルマン特集をしたときはいわゆる“映画好き”ではない方々もたくさん来たんですよね。「あまりよくわからないけどこれは観たほうがいいものだ」と、カルチャー的な感度の高い人たちが殺到したんです。濱口竜介さんの作品もそういう要素も持っていると思います。
鈴木:若者だと2人組というか、カップルもたくさんいらっしゃいます。1990年代から2000年代リバイバルくらいの企画にデートムービーとして来てもらっている感覚があって、『きみに読む物語』とか『ビフォア・サンライズ』の上映などには若い2人組がすごく多いので「なるほど……!」と思いました。あとは1990年代とか2000年代の映画が完全にクラシックになっているんだな、と……。
上田:私が番組を始めたときは、1990年代の作品は「クラシック」として上映してもお客さんが集まりませんでした。確実に時代は流れているんだなと感じます。
「いま観る意味」を少しでも見出すために
——今後の活動についてどのように考えていますか?
鈴木:Strangerはジャンルの幅が広く、1日の中で最大7枠上映しているので、来てもらった方に「こういう作品もあるんだ」と引っかかるような感じで、旧作のほうも組み込んでいけたらいいなと思っています。あとは良い映画はもちろん、「よく分からないけどとりあえず観てみよう」みたいな作品も入れていきたいなと。安全牌ではないチャレンジ枠を増やしたいと思います。
上田:早稲田松竹も以前より作品数が増えていて、一つの特集につき4本から6本上映することもあります。ただ、ある程度有名なタイトルとかだとやはり配信の影響などもあるのかもしれないですが、お客さんが思ったほど来なかったりもして。また、新作の洋画などはミニシアター系だとなかなか厳しくなってきているような状況もあるので、公開館ではフットワーク的に難しそうな特集上映を展開したいなとは思います。複数作品を上映することで「そういう作品も関係あるんだ」というような発見に繋げて、他の作品も観るきっかけを作り続けたいなと思います。
——2024年はハリウッドに限らず、いよいよ洋画が年間興行料収入でもベスト10に入らないような状況になりました。だからこそ旧作を通して面白い洋画を広めてるのもすごく大事だなと感じていますし、それゆえに映画の選択もとても貴重になるのではないかと改めて思っています。
上田:映画文化的なものも再構築の時期に入っているんだろうなと思います。日本の映画批評文化もある程度独自のものだけど、少しアメリカのレビュー文化にも近づいていて、新しい展開が生まれている気がします。もともとあった日本の映画批評文化みたいなものには、今のお客さんは少し距離を感じていて、ここをどういうふうに縮めるかというのも課題になると思います。私たちは映画を選定するときにすごく参考にするし、考えるきっかけをくれるので批評を読むのは大好きなんですが、批評に抵抗がある人たちは一定数いて。
鈴木:馴染みがないのかな。
上田:「なんかこの作品面白かったけど、難しかったな。でもなんで面白いんだろう」みたいなところから批評を読むことにつながると思うので、早稲田松竹ではそういうことを特集のときに掲示板などで紹介していますし、スタッフが毎回紹介文などを書いたりしています。映画批評とどういう関係を作るかは重要なことになると思います。
鈴木:Strangerでは特集ごとに毎回『Stranger Magazine』というオリジナルの冊子を作っていて、媒体を作った初代代表の岡村さんは、映画館も映画を論じるという批評誌としての意図で出されていたと思います。ただ、今は私が担当になって、もう少し“ごちゃ混ぜ"でいきたいなと思って、間口を広くすることを意識しています。温故知新というか、若手の書き手の方とベテランの書き手の方とのバランスを取るようにしたり、一冊の中でも広いジャンルの方に書いてもらいたいし、いろいろな見方を提示したい。一つの映画に対しても一人の監督にしても、いろいろな見方があるということを提示できるような媒体を作りたいと思っています。
上田:東京国際映画祭関連のイベントでカンヌのクラシック部門のディレクターの方がいて、「クラシック映画」や「リバイバル」といったものがどういう意味を持つのかというような話をしていたんですが、そこで「リバイバルする」というのは「新しく作品が生まれている」ということだとおっしゃっていたんですね。フィルムをレストアすれば、それはオリジナルとは何かが違っていて、歴史的な文脈も切れているし、いま観るものはいま観られるものとして新たに作らなきゃいけないと話されていました。「いまこれを観る意味ってなんだろう」というようなことはやっぱりすごく考えるし、そこにはどうしても批評的なものが発生している。当時パリにいた人にとってのゴダールと、我々がいま観るゴダールというのはやはり全然違うのであって、「いまゴダールの作品を観る意味」を強く生み出さなければならない。いま観る意味を生み出せる場所を作っていかないといけないなと思います。リバイバルがこれだけ多いと、それぞれに対して「いま観る意味」を見出すのはすごく難しいとは思いますが、でもこれだけたくさんの作品を観れる時代というのがそもそもすごく特殊で、その特殊さの中から出てくる言葉もまたおもしろいと思いますし、我々もその状況の中に一緒にいるわけだから、みんなで盛り上げたいですよね。
鈴木:そう思います。
上田:今までほとんど観られなかった作品が上映されるというのは、ほとんど新作上映と変わりないわけです。一つひとつのリバイバル上映できちんとお客さんを集めたいなと思うんですが、あまりに数が多すぎて不安になることはあります。でも新しいマスターで作られる特集上映ってそんなに何回もできることではないから、なんとかうまくいくことをいつも願っています。
——最後に、お二人から告知事項はありますか?
鈴木:2月13日まで、今年第1弾目のStrangerの独自企画としてハル・アシュビー特集をやっています。ハル・アシュビーというと『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』や『さらば冬のかもめ 』など1970年代の作品を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は1980年代にもそれなりに作品を作っています。この時期はすごく不遇の時代で、批評的にも興行的にも評価されずそのまま59歳の若さでがんで亡くなってしまいました。『大狂乱』と『セカンドハンド・ハーツ』に至っては日本公開されていません。『大狂乱』はビデオがありますが『セカンドハンド・ハーツ』はソフトにすらなっていない作品で、これが日本初公開となります。いま観たら「埋もれていた傑作」と思われるかもしれないし、やっぱり当時の評価のままかもしれないし、それはお客さんの判断によりけりだと思うんですが、まだ評価が定まっていないものを観れるのは貴重な機会だと思います。さきほどの上田さんの言葉を借りるなら、「新作」として観ていただきたいなと思います。
上田:すごく観たいです。
鈴木:もちろん代表作を1本は入れたかったので、『ハロルドとモード』は入れています。これは配信もされていますが、改めてスクリーンでも観てもらいたくて。
上田:日本でハル・アシュビーというと、ニューシネマ期の監督の一人という程度の理解だと思いますが、アメリカとかだと多くの映画監督に影響を与えている巨匠だとみなされているんですよね。
鈴木:日本での立ち位置を変えたいくらいの気持ちでやっています。昨年のジョン・ヒューストン特集のときも、もっとジョン・ヒューストンを知ってほしい!日本での認知度をStrangerから上げていくぞ、と思い企画しました。
上田:さっき、さとみんが「あんまりみんなが知らないような作品とか、評価が定まってない作品を上映したい」みたいな話をしていたと思うんですが、“間違って出会っちゃった”みたいな現象は面白いなと思って作品を選定しています。
鈴木:早稲田松竹の2本立てで「ここ、関係あるんだ!」と知ることは結構あります。
上田:本当に関係があるかどうかよくわからないようなものなども上映しますし、ただ、だんだん2本立てというと結構明らかにお互い参照し合っているものばかりにもなってしまって、それは早稲田松竹のせいかもしれなかったり……。でも一緒に観ることで深堀りできるようなこともやりたいし、何となく距離が遠いものを一緒に上映するみたいなことをして、逆に自ら近づけたものをまた離したりとか、そういうこともしたいなと思っています。
■劇場情報
Stranger
住所:墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
都営新宿線 菊川駅 A4出口 徒歩1分
半蔵門線 都営大江戸線 清澄白河駅 徒歩13分
TEL:080-5295-0597
公式サイト:https://stranger.jp/
早稲田松竹
住所:新宿区高田馬場1-5-16
JR山手線・西武新宿線 高田馬場駅下車
早稲田口から徒歩7分
東西線高田馬場駅7番出口から徒歩2分
副都心線西早稲田駅1番または2番出口から徒歩7分
TEL:03-3200-8968
公式サイト:http://wasedashochiku.co.jp/