『グランメゾン・パリ』は今の時代を映す美食映画の逸品に 木村拓哉が背負う映画化の必然

尾花たちが直面する現実は厳しい。ドラマで観てきたハードルとは次元の違う困難さだ。『グランメゾン・パリ』は、サクセスストーリーのプロットに世界の実像を織り込んだ。ランクの低い肉と血抜きのされていない魚、まともな野菜は自分たちには回ってこない。海外で暮らしたことがあれば一度は経験するであろう人種差別。マイノリティであるアジア人同士でも容易にわかり合えない文化の壁。立ちはだかるフレンチの格式と伝統。貧困と暴力。複合的な要因が組み合わさって、容易に抜け出せない泥沼に足をとられてしまう。
人種のサラダボウルのようなパリで苦しむ尾花。作中では、パリでの三つ星を諦めて東京やニューヨークで料理人として生きる可能性も示唆される。しかし、そうしないのは「こんなおもしれえこと」やめられないからだ。苦しむ過程さえ滋養に変えてしまう料理人の生きざまは、尾花や倫子、パティシエのユアン(オク・テギョン)に共通する特質だ。彼らが出した答えは、この世界の複雑さをありのままに愛することだった。
『グランメゾン』シリーズの売りは料理である。ドラマでは三つ星レストラン「カンテサンス」などの料理が使用されたが、劇場版でもフランス版ミシュランガイドで三つ星を獲得した「Restaurant KEI」の小林圭氏が料理監修を担当している。観ているだけで夢の世界に引き込まれるような色彩と造形の饗宴は、スクリーン上でも圧倒的な迫力で再現される。映像に加えて音響も聞き逃せない。クリスピーな生地の食感や肉汁がこぼれる瞬間の水蒸気の放散が、繊細なタッチで見事にとらえられている。
それらすべてが合わさって生まれるのは「最上級の料理が人の心を動かす」という作品を貫く原理だ。ドラマは人間を描き、観る人に感動を与える。しかし、最高の料理がもたらした登場人物の心境の変化を、観ている私たちが追体験することは不可能に近い。それに果敢に挑んでいるのが『グランメゾン・パリ』であり、想像上の味覚を満足させるクオリティを備えていることは、本作をご覧になった方は同意していただけるはずだ。なにより今作が素晴らしいのは、いくつになっても夢を追求することの尊さを正面から伝えていることだ。その命題を背負うのに木村拓哉以上の適任者はいない。
■公開情報
映画『グランメゾン・パリ』
全国公開中
出演:木村拓哉、鈴木京香、オク・テギョン、正門良規(Aぇ! group)、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、寛一郎、吉谷彩子、中村アン、冨永愛、及川光博、沢村一樹ほか
監督:塚原あゆ子
脚本:黒岩勉
料理監修:小林圭(Restaurant KEI)
制作プロダクション:TBS SPARKLE
配給:東宝、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2024 映画『グランメゾン・パリ』製作委員会
公式サイト:https://grandmaison-project.jp/
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