奈緒×玉森裕太『あのクズ』“前進”に相応しいラストに ほこ美を突き動かした海里への思い

「あなたのことが好きだから私が殴る。あなたが何度クズになろうが私はその度にこうやって殴りに来ます」
編み込みをしたほこ美(奈緒)がボクシングの試合で相手のパンチを受けて、リングの上で倒れ込むシーンから始まった『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系)第1話冒頭は、最終話に繋がる。

自分のせいでほこ美が危険に晒されることに愕然とした海里(玉森裕太)は、仕事も何もかも投げ捨てて彼女の前から姿を消す。しかし、ほこ美は自暴自棄になり無気力に生きる海里を探し当て、決して彼のことを諦めない。例のスパーリング練習のトラウマが拭いきれないほこ美を再びリングに押し上げるのは、いつだって海里だ。自分のためだけであれば復活は難しい状態でも、海里を立て直したい、彼をこちらに連れ戻したい、という強い想いがほこ美を突き動かす。

そもそも格闘技はおろか、スポーツ自体と縁遠い生活を送っていたほこ美をボクシングの世界に引き込んだのが海里。結婚式当日に逃げ去った元婚約者ではなく、その痛手から救い出してくれたかに見えて再び悪気なく地獄に突き落としてきた海里を殴るために、ほこ美は無我夢中でボクシングにのめり込んでいった。
ほこ美がボクシングに夢中になる過程は海里のことを知る過程でもあった。海里を叱咤激励しながら自身を鼓舞させるほこ美。2人の関係はある意味一心同体とも言える。そしてほこ美は本当の意味での“強さ”と仲間を手にしていく。

正々堂々闘った結果、7年前の悲劇に繋がってしまった海里を再び彼自身の人生のリングに上げるために。人の命を奪ってしまった自分なんかが夢を見たり希望を抱いたりする資格なんてないと言わんばかりに、ただただ虚無に受け流すように生きる海里に応援団がたくさんいることに気づいてもらうために。ほこ美がリングに戻り闘うことから逃げなかった理由はこれに尽きるのだろう。