『虎に翼』は“原爆裁判”をどう描く? 寅子のモデル=三淵嘉子の史実から考える

『虎に翼』は“原爆裁判”をどう描く?

 さらに、1945年10月に各救護所が閉鎖されて以降、被爆者へは公的支援もなされていなかった。つまり、少なくとも「原爆裁判」が起こされるまでの10年間は、原爆によって負傷した人々や原爆によって家族を失った人々へのサポートが特にされていなかったのだ。「原爆裁判」はそのような支援の観点からの“問題提起”であったとも言える。

 裁判は、結審まで時間がかかることが多いが「原爆裁判」の審理は8年に及んでおり、そのうち、弁論準備だけでも4年の時間がかけられている。三淵は、右陪席(次席裁判官)として第1回の口頭弁論から結審に至るまで担当し続けたことで知られている。その間、裁判長と左陪席は何度か交代しているので三淵は「原爆裁判」の8年間をずっと見てきた唯一の人物なのである。三淵がこの審理に大きな関心を寄せ、心血を注いでいたことは間違いないだろう。

 これからの『虎に翼』で「原爆裁判」がどこまで詳しく描かれるかはわからないが、実際の「原爆裁判」の判決文では、「アメリカ軍による広島・長崎への原爆投下は国際法に違反する」ことが述べられている。また、被爆者は損害賠償を請求できないとしているが、「十分な救済策を執るべきは立法府及び内閣の責務である」と述べている。つまり、「十分な救済策を作るように」と政治に“注文”しているのである。三権分立に厳しい『虎に翼』の桂場(松山ケンイチ)の姿が目に浮かんでくるようだ。

 寅子は久しぶりに会った桂場に対して、「法とは綺麗なお水、水源のようなもの」という考えから「水源は法律ではなくて、人権や人の尊厳なのではないか」と考えるようになったと話している。きっとこの「原爆裁判」は、寅子の裁判官としての柱、考え方を確固たるものにしてくれるのではないだろうか。

参考
山我浩『原爆裁判―アメリカの大罪を裁いた三淵嘉子』(毎日ワンズ)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、岡田将生、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、平岩紙、三山凌輝、毎田暖乃、青山凌大、今井悠貴、和田庵、菊池和澄、名村辰、松川尚瑠輝、野添義弘、ドンペイ、滝藤賢一、松山ケンイチ
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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