『デッドプール&ウルヴァリン』が大ヒットを成し遂げた理由 マルチバースを最大限に利用
今回のウルヴァリンは、やさぐれていて好戦的なところが特徴だ。イライラするとすぐに拳からクローを飛び出させ、デッドプールを切りつける。デッドプールもまた、ウルヴァリンを刀で串刺しにする。両者とも肉体に再生機能が備わっているため、このバイオレントなケンカはなかなか終わらず、延々と血飛沫が飛び続ける。このあたりは、さすがR指定作品といったところだ。
ギャグ満載かつ過激なバイオレンスが描かれる『デッドプール』シリーズだが、本作でアベンジャーズに参加しようとするも、ジョン・ファヴロー演じるハッピー・ホーガンに断られるシーンが映し出されるように、今後の展開は不透明ながら、現状では無理にアベンジャーズに加わるよりも、変わらず我が道を進んだ方が作品にとっていいだろうという選択が示唆されている。これには、観客も同意なのではないだろうか。このように、メタ的な事情が物語のかたちで表現されるのが、本作の面白さとなっている。
ジャックマンのウルヴァリンとレイノルズのデッドプールは、『デッドプール』 シリーズ製作以前に『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009年)で、すでに邂逅を果たしている。だが、デッドプールはキャラクターとして不遇といえる扱いを受けていて、『デッドプール』 (2016年)でレイノルズが脚光を浴びるまでは、気の毒な印象があった。そして本作では逆に、ウルヴァリンがとくに不遇な過去と罪を背負った、悲しい存在として描かれている。
劇中では殺し合いをしてしまうほど打ち解けてくれないないウルヴァリンとデッドプールだが、マルチバースを守るため、最終的には文字通り互いに手を結び、命がけで脅威に立ち向かう姿が描かれることになる。このように辛酸を味わった二人が手を取り合う姿には、過去作の事情を踏まえた、この組み合わせだからこそ味わえる感慨深さがある。
また、二人が落とされることになる、マルチバース上の“ゴミ溜め”とされる虚無の世界では、当時の俳優が演じる過去のヒーロー作品の登場キャラクターや、企画が成立しなかったキャラクターがサプライズ登場するといった展開も用意されている。20世紀フォックスのロゴが荒廃した地上に打ち捨てられているように、“ゴミ溜め”には基本的に、時代の流れのなかで役目を終えた存在が集まるという、これまたメタ的な設定が見られるのである。
そして、そのような世界から脱出を遂げることができたデッドプールたちには、未来が用意されていると考えることができそうだ。ちなみに、“ゴミ溜め”でいったいどんなヒーローが現れるのか、共闘が実現できるのかについては、本編の楽しみとしてほしい。
一部、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年)に似た展開がありながらも、過去と現在、未来を繋ぎ、かつて栄光を味わった者たち、活躍できなかった者たち、社会から疎外された存在にスポットライトを当て、そこにこそ語るべき物語があるとする、本作の姿勢には熱いものがある。
同時に、「マルチバース」という設定を駆使して、会社の事情や過去の因縁などを描ききるというアイデアの面白さ、そして20世紀フォックス時代の業績を讃えることで、その遺産を引き継ぐという真摯なメッセージなど、今回の大ヒットの要因には、ギャグやバイオレンス以外に、このようなものがあると考えられるのである。
気になるのは、「マルチバース」という設定を最大限利用した本作に対して、今後のマーベル・スタジオ作品が、同様に魅力的な物語を構築できるかという点だ。
それぞれのパラレルな世界からヒーローやヴィランが現れて戦ったり、世界そのものが消滅してしまうなど、マルチバース世界を利用したドラマは、われわれの現実やリアリティから、かなり離れたところにあるといっていい。おそらくはその設定により踏み込んでいくと見られる、マーベル・スタジオの今後の流れのなかで、ギャグ満載のデッドプールはまだしも、シリアスな展開の作品が、広い観客に向けて価値を高めていくことができるのか。これが、今後のマーベル・スタジオ作品の課題になってくると考えられるのである。
■公開情報
『デッドプール&ウルヴァリン』
全国公開中
出演:ライアン・レイノルズ、ヒュー・ジャックマン
監督:ショーン・レヴィ
日本版声優:加瀬康之、山路和弘、佐倉綾音、置鮎龍太郎、林真里花、三上哲、一柳みる、忽那汐里、影平隆一、嶋村侑
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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