『ガルクラ』『数分間のエールを』は日本アニメの“到達点”に 3DCGで追求した手描きの良さ

『ガルクラ』『数分間のエールを』3DCG解説

キャラクターの身体が微細に揺れる『ガルクラ』

 こうした手描きに近づけるCGは、日本のアニメの伝統的魅力を新しいツールでも実践しようという試みだが、一方でCGならではの魅力が制限されてしまう部分もある。アニメーションは動きの芸術なので、リミテッドな手描きとは別に、24フレームでたくさん動かし、3Dならではの立体感をより活かす表現も合っていいはずだ。

 東映アニメーションの『ガルクラ』はその実践例だ。まずキャラクターの立体感を消さずに成立させている。『シャニアニ』の陰影は、手描きで塗り分けたような付け方をしているのに対して、『ガルクラ』はより滑らかなグラデーションで、立体的な造形を強調している。イラストレーター手島nariのキャラクターデザインを上手く立体としてモデリングし、それをそのまま動かすという試みで、制作者たちはこれを「イラストルック」と呼んでいる。

 動かし方も対照的だ。『ガルクラ』は日常芝居でも1秒24フレームで活発に動かしている。手描きアニメにはない、キャラクターの微細な身体の揺れまである。生身の人間の身体は完全に静止せず、微妙な揺れが常にあるものだが、そういう細かい動きも『ガルクラ』の場合、省略していない。

TVアニメ『ガールズバンドクライ』本予告第2弾【2024年4月5日(金)より放送開始】

 リミテッドな手描きアニメはそういう動きを省略し、本当に必要な動きだけを描くことで強調することに特徴がある。そういう表現に慣れていると、アニメキャラの身体が揺れていると気が散りそうなものだが、本作ではむしろ、キャラクターの揺れ動く感情に寄り添った表現として成立している。

 一方で、手描きアニメ的な記号的表現もたくみに取り込み、日本のアニメらしさも同時に持っている。従来の手描きアニメの動きだけにとらわれず、日本アニメの良さを引き継ぐことに成功していると言えるだろう。

背景もキャラクターも絵柄が統一された『数分間のエールを』

 『シャニアニ』や『ガルクラ』とも異なるビジュアルを作り上げているのが、『数分間のエールを』だ。従来の日本アニメのルックとは一線を画しており、イラストが動いているという印象を与える。

 動かし方に関しても『ガルクラ』同様、CGである利点を生かして滑らかに動かしつつ、アニメらしい記号的表現も随所にまぶしていくというスタイルだ。

 『ガルクラ』と比べてこちらが特異なのは、フォトリアルではないビジュアルスタイルを選択していること。『ガルクラ』はキャラクターたちが現実的で立体的な都市空間に実在しているかのような印象を与える一方で、『数分間のエールを』は、キャラクターも背景もまるで1人のイラストレーターが描いた絵のような体裁を保ちながら、3DCGの利点を活かして「絵の立体空間」を現出させている。3DCG空間であるためにカメラワークも自由度が高く、その利点をフルに活かして演出されていて、躍動感ある映像を作り上げている。

 また、背景とキャラクターの絵柄が統一されている点も注目すべきポイントだ。アニメ制作では、キャラクターの動きと背景は別々に制作されるため、リアリティラインのズレが生じることがある。フォトリアルな背景に非リアルなアニメのキャラクターを配置するのは、商業アニメで珍しくなく、リアリティラインがズレていることの面白さを活かす作品もあれば(『ガルクラ』はどちらかというと、このタイプ)、統一感を持たせてどのショットも「一枚の絵」として成立させる面白さもある。『数分間のエールを』は後者であり、『ガルクラ』とはまた異なる「イラストルック」の魅力に溢れている。色の塗り方に独特の美学を発揮していて、新鮮なビジュアルを商業アニメで成立させた点で貴重な作品と言える。

映画『数分間のエールを』本予告<2024年6月14日(金)全国公開>

 『ガルクラ』も『数分間のエールを』も、従来の手描きアニメに近づけようという発想ではなく、それぞれに手描き表現のエッセンスを吸収しながら、CGという新たなツールの特徴も巧みに取り入れている。この2作は日本アニメのルックと動きをより多彩にするという点で、貴重な道を示したと言える。同時に従来の動かし方とルックの魅力はこれからも引き継がれていくであろうし、その表現を目指すCGアニメも同時に存在し続けることになるだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる