『クレヨンしんちゃん』の3DCG化は成功? 評価するべき点と気になったキャラ造形

『クレヨンしんちゃん』の3DCG化は成功?

 8月4日に『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』が公開された。本稿では映像面を中心に今作の挑戦について評価していきたい。

 本作は『クレヨンしんちゃん』シリーズの31作品目にあたる劇場版アニメ作品。CGアニメーションの白組が制作を担当し、初の3DCGであることが話題になっている。監督・脚本は映画『バクマン。』などの大根仁が担当している。

 近年は長く続いたシリーズ作品のアニメ映画が3DCGとして制作され、公開されるパターンが増えている。今作と同じく白組が制作した『STAND BY ME ドラえもん』や『ルパン三世 THE FIRST』のほか、東映アニメーションが制作した『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』もヒットを記録した。特に『ドラえもん』や『ドラゴンボール』は海外でも高い興行収入を記録している。国民的人気シリーズの3DCG化は新手法への挑戦として定着しているのだ。

 一方で『クレヨンしんちゃん』シリーズは、3DCG化に対して独特の難しさがある。それは過去作が手書きアニメの豊かな表現を駆使し、最も自由な発想で作られているシリーズという点があるからだ。湯浅政明が手がけた過去作の自由な手書き表現やキャラクター、美術造形は、今なお多くのファンを虜にし続けている。これだけ手書きの魅力を発揮した作品群を3DCGとすることの難易度は高い。

 ただ、今作は初の3DCG化ということも加味して評価すれば、その不安をある程度払拭した完成度となったように思う。他作品のように背景などを写実的に作り込むのではなく、あえてデフォルメ化させることで、原作の雰囲気を再現することに成功した。

 パンフレットのCG WORKSには最初期のモデルが載せられているが、目鼻立ちがはっきりしており、いわゆる“3DCGっぽい”絵柄になっていた。これでは3DCGぽさが前面に出過ぎており、手書きアニメの手法に慣れ親しんだ子どもやファンからは、違和感を抱かれていたように思う。完成したシンプルな原作の絵柄に寄せた総合的な画面の見た目は、拒否感を抱かれにくい見事なバランスだった。

 またダイナミックな映像表現が冒頭から炸裂しており、しんちゃんとみさえが追いかけっこをする日常のシーンは、迫力のある仕上がりとなっていた。冒頭から3DCGの強みをしっかりと強調し、観客に手書きとは異なる魅力を主張している。これは中盤から後半にも活かされており、カンタムロボや遊園地のアクションなどにも反映されていた。これらは3DCGだからこそできたものだろう。

 今の時代にしんちゃんのギャグを行うのはリスクが高く、お下品なギャグは児童の下ネタとして、あるいはそのツッコミとなるみさえのお仕置きも虐待描写として問題視されるようになってきた。今作ではその点にも配慮され、みさえの頭グリグリのお仕置きの代わりに、プロレス技のジャイアントスイングのようにグルグルと回転することで、しんちゃんが楽しむ描写を入れることで、お仕置きではあっても虐待ではないというバランス感覚を持ち合わせていた。

 今作の監督・脚本を担当したのは、実写作品を多く手がける大根仁だが、今作はしんちゃん映画でありながらも、明確に大根仁の映画でもあった。大根の特徴といえばカルチャーネタを織り込んだギャグ描写や、平成の名曲を巧みに使用する点などにある。今作でもしんちゃんのギャグと大根の作家性が噛み合っているように感じた。。また大根作品といえばエンドロールが話題にあがるが、今作はまさに年間ベスト級の見応えのあるエンドロールで、最後まで楽しませてもらった。

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