『アンメット』が映す脳と心の宇宙 杉咲花と若葉竜也の言葉にならない感情が交錯する

『アンメット』が映す脳と心の宇宙

 過去2年の記憶がなく、昨日の出来事を翌朝には忘れてしまうミヤビにとって、左半側無視の亮介は、脳の障害によって生じた欠落を抱える者同士である。ミヤビは時間、亮介は空間の認知で、状況に違いはあるものの、そこにあるはずのものがない点で共通する。見えないものを見ようとする姿勢は『アンメット』というドラマの特徴かもしれない。ミヤビはその導き手として、亮介の壊れてしまった脳の地図を取り戻す手助けをした。

 記憶障害になったミヤビは「障害があるからって、自分の人生を諦めるのは悔しい」と言う。脳に障害を負っても、亮介には持続するサッカーへの情熱があった。もう一つ失っていないものがあって、サッカー部の仲間たちは亮介の思いを背負い全国大会への切符を勝ち取った。

 見えないものを演じる、それは物理的にだけでなく、自身の心に映らないものも含めて「ない」けれど、たしかにそこに「ある」ものを演じることだ。感情だけがその痕跡を覚えていて、いつか何かのきっかけで思い出せるかもしれない。不確かな無意識の境界を、主演の杉咲花は一つずつ手探りで確かめながら、おぼろげな輪郭を形にしていく。ミヤビは絶えず不安と緊張の中に身を置いており、演じる杉咲は記憶障害を抱えて生きることの意味を問いかける。

 脳外科医・三瓶友治役の若葉竜也は、空白を内部に抱えたミヤビに寄り添い、様々なトリガーを与えながら、眠っているミヤビの心の領域にアクセスしようと試みる。相手が抱える「わからない」状態を、ありのままに受け止めながら、それでもなおミヤビという人間を信じる心のありようは、“無”と“有”を同時に見すえるようで、仕草や表情の随所から言葉にならない感情が伝わってきた。

 2人の対話を軸にした『アンメット』は、脳が生み出す心の世界を丹念に描き出す。第2話ラストで明かされたミヤビと三瓶の過去は、これから歩む未来にも影響せずにいられないだろう。それさえも記憶の1ページに綴りながら、私たちは今日という日を生きていく。

■放送情報
『アンメット ある脳外科医の日記』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花、山谷花純 尾崎匠海(INI)、中村里帆、安井順平、野呂佳代、千葉雄大、小市慢太郎、酒向芳、吉瀬美智子、井浦新
原作:子鹿ゆずる(原作)・大槻閑人(漫画)『アンメット-ある脳外科医の日記-』(講談社『モーニング』連載)
脚本:篠﨑絵里子
音楽:fox capture plan
主題歌:あいみょん「会いに行くのに」(unBORDE/Warner Music Japan)
オープニング曲:上野大樹「縫い目」(cutting edge)
演出:Yuki Saito、本橋圭太
プロデューサー:米田孝、本郷達也
制作協力:MMJ 
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/unmet/
公式X(旧Twitter):@unmet_ktv

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