『マダム・ウェブ』完全ネタバレ解説 3人の少女はどうやってスーパーヒーローになる?

『マダム・ウェブ』完全ネタバレ解説

 こんにちは、杉山すぴ豊です。ここ最近のマーベル、DCのアメコミヒーロー映画まわりのニュースや気になった噂をセレクト、解説付きでお届けします! 今回は『マダム・ウェブ』について、ネタバレ全開で小ネタなどを紹介していきます。(以下、ネタバレあり)

MCUではないマーベル映画

マダム・ウェブ

 まず本作は“マーベル映画”であり、“スパイダーマン系の映画”ですが、いわゆるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)とは違います。本作はソニーピクチャーズの製作です。ソニーは、MCUが立ち上がる以前からスパイダーマンの映画化権をマーベルから手に入れ、実写映画化を展開してきました。後にマーベルがディズニー傘下となり、本格的にMCUが動き出すわけですが、ソニーとディズニーが話し合い、スパイダーマンの映画化権はソニーが持ちつつも、MCUに彼を登場させることが可能になりました。

 こうして2016年のMCU作品『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』以降、トム・ホランド演じるスパイダーマンことピーター・パーカーが登場するようになります。そして、ソニーが持つ“スパイダーマンの映画化権”とは、スパイダーマンのコミックに登場するキャラについてすべて適用されます。そこでソニーは「スパイダーマンを出さずにスパイダーマンに関係するキャラ」を主人公にした、MCUとは別の映画世界を作り始めます。実写映画『ヴェノム』(2018年)、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021年)、『モービウス』(2022年)がそれに該当します。

 この世界観は、MCUのそれとは別であり、SSU(Sony's Spider-Man Universe=ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース)と呼ばれています。なおSSUは、かつてSPUMC(Sony Pictures Universe of Marvel Characters=ソニー・ピクチャーズ・ユニバース・オブ・マーベル・キャラクター)と呼称されていました。つまり、SPUMCが後にSSUになったのですが、なぜか『モービウス』の時にまたSPUMCという言葉が使われたこともありました。なので、『モービウス』当時の僕の書いたコラムは、SPUMC表記になっています。

 この先公開が予定されているSSU作品には、アーロン・テイラー・ジョンソン出演の『クレイヴン・ザ・ハンター』(クレイヴンは、原作コミックではスパイダーマン狩りに命を燃やすハンター)、トム・ハーディが3度目の主人公を演じる『ヴェノム3(仮題)』があります。というわけで、この『マダム・ウェブ』はSSU作品であるわけですが、『ヴェノム』などと決定的に違うのは、ヴェノムもモービウスももともとコミックではヴィラン=悪役であり、マダム・ウェブはヴィランではないということです。

キャシーの相棒はあの“おじさん”

 本作で注目すべきはキャシー(ダコタ・ジョンソン)の相棒であるベン(アダム・スコット)。フルネームはベン・パーカーであり、もうすぐ弟夫婦に子どもが生まれるので“ベンおじさん”になるわけです。ここまで来るとピンときますよね。そう、スパイダーマンことピーター・パーカーの育ての親は、ベンおじさんでした。

 この映画では(ここがポイントですが)、ベンの弟夫婦に生まれる子ども=甥っ子の名前が、さんざんもったいぶっておきながら明らかにされません。おそらく映画の最後のほうに登場するあの赤ちゃんの名前はピーターです。ただ、この作品がスパイダーマンに繋がるかをあえてぼかすため、あの子の名前を明らかにしなかったのだと思います。要は観客の皆さんの想像にお任せします、ということでしょうか? さて、この赤ちゃんのお母さんはメアリー(エマ・ロバーツ)、そして父親(つまりベンの弟)はリチャードであるということは劇中で明らかになりますが、このリチャードは名前が出るだけで登場しません。どうやら世界中を飛び回っている仕事をしているみたいなのですが、実はコミックではピーターの父リチャードはS.H.I.E.L.D.ないしCIAのエージェントだった! という設定が語られたことがあります。これを意識してのことでしょうか? 確かに世界を飛び回っているってスパイっぽいですよね。

もう一人の“おじさん”に注目 

 “おじさん”絡みでもう一つ興味深いネタが。タクシーで逃げる最中、マティ(セレステ・オコナー)がジョナおじさんに電話すると言います(結果、そのケータイをキャシーに捨てられてしまいますが)。このジョナおじさんは、ジョン・ジョナ・ジェイムソンのことです。そう、コミックではマティは彼の姪なのです。彼女の血のつながったおばが、ジョナの妻にあたります。

 コミックなどでは、ジョン・ジョナ・ジェイムソンはスパイダーマンをたたく新聞社デイリー・ビューグルの編集長です。キャシーが乗り込んだ列車の中で、女性が読んでいる新聞等が本紙なので、このバースにはデイリー・ビューグルもジェイムソンもいるわけですね。

最初は『ターミネーター』みたいな話だった?

 この映画において、“ベンに甥っ子が生まれる”という状況が割と重要なパートを占めていますが、もともと本作のアイデアは、エゼキエル(タハール・ラヒム)がピーターという若者が将来スパイダーマンになり、自分にとって脅威となることを予知し、赤ん坊だったピーターを狙う。それを阻止するため、キャシーたちが戦うみたいな話だったそうです。ただ、これではあまりに『ターミネーター』なので変更されたとか。

 原作コミックでは確かにエゼキエルは蜘蛛の力をめぐってピーターに絡んでくるので、この初期アイデアはそれなりにスパイダーマン・ストーリーを踏まえたものだったのかもしれません。ただし、コミック版のエゼキエルはこの映画のように“黒いスパイダーマン”みたいな姿にはなりません。劇中、最後の戦いで、電光看板の文字のSとかPが落ちてきて、エゼキエルにとどめを刺します。SとPは、SPIDER-MANの最初の2文字ですよね。こういうところに蜘蛛の運命を感じます。

「大いなる力には……」のアレンジ

 スパイダーマンと言えば、「大いなる力には大いなる責任が伴う(With great power comes great responsibility)」というフレーズ。この映画ではちょっと違ったバージョンで登場します。キャシーがペルーに行った際、ラス・アラニャスの導師から授かる言葉は「大いになる責任を引き受けた時、大いなる力が宿る(When you take on the responsibility, great power will come.)」でした。

 また、映画の最後で、少女たちとの会話の流れからキャシーがベンの責任感について、ちょっと意味深なコメントをします。スパイダーマンにおける重要なフレーズ「大いなる力には大いなる責任が伴う」は、もともとピーターとベンおじさんとの関係の中で発せられるわけです。従って“ベン”と“責任”ということについて、キャシーの中でなにかひらめくものがあったのかもしれません。

コミックにも登場するダイナー

 3人の少女たちが向かうダイナー(食堂)。4STAR DINNER(4スターダイナー)という名前ですが、これはコミックにも登場します。スパイダーマンことピーター・パーカーが大学生時代、たむろしていたという設定でした。映画では、このダイナーの店内にブリトニー・スピアーズのヒット曲「TOXIC」がラジオを通じて流れています。「TOXIC」は「有毒」という意味ですが、この後のエゼキエルの攻撃でキャシーが毒を注入されることを示唆していたのでしょうか。

 また、この映画の後半で産気づいたメアリーをベンが連れていく病院は、セント・ティモシー病院。これは、マティを主人公にしたスパイダーウーマンのコミックに登場する病院です。

ハルクとのリンク

 本作では意外なところに、ハルクとのリンクがありました。マティは「私は空腹になると(機嫌が悪くなり)嫌な奴になるよ」というようなことを言い放ちます。昔のスニッカーズのCMみたいですが(笑)、ここは原語では“You Won't Like Me When I'm Hangry.”と言っています。

 これは1970年代のTVドラマ『超人ハルク』の名セリフ“You wouldn't like me when I'm angry”=「怒っているときの私を皆嫌いになるぞ(なぜならハルク状態だから)」のオマージュかと思います。空腹のHangryと怒りのAngryをかけたのですね。

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