『不適切にもほどがある!』は暴力的な“笑い”を貫くのか “正しさ”より優先されるもの

“正しさ”よりも“笑い”の宮藤官九郎

 その構造を徹底し、見事に物語をまとめ上げたのがNHK連続テレビ小説『あまちゃん』だったが、『あまちゃん』以降の宮藤のドラマはストーリーをきっちりまとめ上げる職人的上手さの方が全面に出ていた。

 同時に女性を排除したホモソーシャルな男子校ノリの作品ばかりを書いてきたことに対する反省もあってか、男子校と女子校が合併することで生まれる価値観の衝突を描いた『ごめんね青春!』(TBS系)や、刑務所で出会った女たちが男社会の象徴と言えるイケメン社長に復讐し社長令嬢の冤罪を晴らそうとする『監獄のお姫さま』(TBS系)のような、現代的な価値観に作風をアップデートさせようとしているように見えた。

 とはいえ、それらの作品もアップデートした現代的な正しい価値観を打ち出して古い価値観を批判するのではなく、価値観の衝突によって生まれる気まずい空気を「笑い」に変換して描こうとしていたと言える。

 おそらく宮藤にとって「笑いにできるかどうか?」こそが最も重要で、できれば「正しさ」よりも「笑い」を優先したいというのが、彼の根幹にある作家性なのだろう。

 それでも、テレビドラマを書く時は「笑い」の部分はだいぶ丸めていたのが、『不適切にもほどがある!』は宮藤が所属する大人計画の阿部サダヲが主演ということもあってか、演劇や映画の時の毒が滲み出て「笑い」の部分が鋭くなりすぎており、ドラマ全体をぶっ壊しかねない暴力的な勢いすらも感じる。

 『不適切にもほどがある!』の宮藤は本気でふざけており、一番本人の作家性が出ているドラマである。批判も多いだろうが、最後までこの暴力的な「笑い」を貫いてほしい。

■放送情報
金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:阿部サダヲ、仲里依紗、磯村勇斗、河合優実、坂元愛登、三宅弘城、袴田吉彦、中島歩、山本耕史、古田新太、吉田羊
脚本:宮藤官九郎
プロデュース:磯山晶、勝野逸未
演出:金子文紀ほか
主題歌:Creepy Nuts「二度寝」(Sony Music Labels)
編成:河本恭平、松本友香
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/
公式X(旧Twitter):@futeki_tbs
公式Instagram:futeki_tbs

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