『おっパン』『不適切にもほどがある!』など、“おじさん”主役のドラマが求められる理由

“おじさん”主役のドラマが求められる理由

 おじさんが躍動している。今クールのドラマの話だ。いつもは脇役が多いおじさんたちが、主役だったり準主役だったりする。医者でも刑事でも企業戦士でもない、ただのおじさんたちがあっちこっちで叫んだり、悩んだり、苦しんだりしている。こんなクールはなかなかない。おじさんたちがなぜ今、ドラマで注目されているのだろうか。

 冬ドラマのおじさんたちの中で真っ先に思い浮かべるのが、『不適切にもほどがある!』(TBS系)で阿部サダヲが演じる小川市郎だ。昭和から令和にタイムスリップしてきた、コンプライアンスのコの字も知らない意識低い系おじさん。妻に先立たれていて、一人娘の非行に悩む父親でもある。昭和10年生まれで1986年(昭和61年)からやってきたから51歳ということになる。

『不適切にもほどがある!』©TBS

 小川市郎と正反対の道を進もうとしているのが、『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジテレビ系)で原田泰造が演じる沖田誠だ。家族や部下たちに時代錯誤的な価値観を押し付け、ナチュラルに暴言を吐くこともあった。周囲の信頼を損なっていることに気づき、なんとか成長しようとしているアップデートおじさん。彼も51歳である。

春になったら
『春になったら』©カンテレ

 テンションは高いのに哀しいおじさんが『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)で木梨憲武が演じる椎名雅彦だ。妻を亡くした後、男手ひとつで娘を育ててきたが、膵臓がんで余命3カ月を宣告されてしまう。3カ月後に結婚する娘の相手が売れない芸人だと知り、絶対に結婚を認めない頑固おじさんでもある。芸人のライブをぶち壊してしまうなんて、朝ドラだったら炎上ものだろう。彼は62歳である。

さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~
『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』©TBS

 カッコよく見えるが、実は困ったおじさんもいる。『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)で西島秀俊が演じる夏目俊平は天才マエストロ(指揮者)だが、音楽以外のことはまるでダメなポンコツおじさん。過去にあった出来事のせいで娘との関係はきわめて険悪だ。年齢は定かではないが、50歳前後だろう(演じる西島は52歳)。

『グレイトギフト』第3話
『グレイトギフト』©テレビ朝日

 『グレイトギフト』(テレビ朝日系)で反町隆史が演じる藤巻達臣は、うだつの上がらない病理医だ。周囲とコミュニケーションをとるのが決定的に下手で、職場で見下されている上、娘とも険悪にもなっているコミュ障おじさん。年齢は50歳である。

 おじさんたちは(一部の例外はあるが)一様にカッコ悪くて、見苦しくて、周囲との関係も上手くいっていない。没入する趣味もないし、仕事以外の友達もほとんどいない。極端な物言いをすれば、もはや社会のお荷物になりつつある。昭和や平成のドラマの中のおじさんたちはバリバリ仕事をして、女性にやたらとモテたり、不倫にいそしんでいたりしたが、令和のおじさんたちはモテようと考えるなんて言語道断。行動を起こすこと自体が加害行為なのだ(テレビ朝日系ナイトドラマ『おっさんずラブ-リターンズ-』の黒澤武蔵のような例もあるが、あれはちょっと戯画化されすぎているような気がする)。

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