『劇場版ハイキュー!!』作画に宿るバレーボールの醍醐味 『THE FIRST SLAM DUNK』を経て

『劇場版ハイキュー!!』2D作画の凄さ

 古舘春一の漫画を原作にして、バレーボールに打ち込む高校生たちを描いたアニメシリーズ『ハイキュー!!』の最新作『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が2月16日に公開。試合の中で瞬間的に浮かんだり変化したりするプレイヤーの気持ちや、周到に巡らされている作戦に触れられて、自分もコートの中にいて一緒にバレーボールをしているような気持ちになれる映画だ。

 2014年4月から放送が始まったTVアニメ『ハイキュー!!』は、OVA作品も交えながら第4期まで制作され、その中で、主人公の日向翔陽が宮城県にある烏野高校排球部に入り、同じ1年でセッターの影山飛雄や他の仲間たちと共に数々の試合に臨んでいくストーリーが描かれてきた。第4期の『ハイキュー!!TO THE TOP』で、全国大会の春高バレーに進んだ烏野高校は、1回戦で強豪校の稲荷崎高校を相手に勝利し、いよいよ因縁のライバル校、音駒高校と戦うというところでアニメは終わった。

劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦_サブ06(西谷夕)

 この時の残念さは、TVアニメ版の『SLAM DUNK』がインターハイでの湘北高校と山王工業との激突を描かないで終わった時に並ぶものがあった。その『SLAM DUNK』が、原作漫画を描いた井上雄彦自身が監督することによって劇場アニメ『THE FIRST SLAM DUNK』となり、待望の山王戦を描いたことで、先にアニメ続編として2部作での制作が発表されていた『ハイキュー!!FINAL』への期待もグッと高まった。

 そして発表となった『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の制作。高校名から連想される動物たちの縄張り争いに例えられた”ゴミ捨て場の決戦”が遂にアニメで描かれるとあって、ファンの期待は沸騰した。翔陽がライバルとしてとらえている音駒の孤爪研磨との関係にとどまらず、それぞれのチームのそれぞれの選手たちが、お互いに認め合っている相手との試合だけに、どのようなドラマが描かれるのかが気になった。

劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦_サブ03(黒尾鉄朗)

 ここで、『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は、『ハイキュー!!』本来の主人公と言える翔陽であり相棒となる影山ではなく、研磨をストーリーの軸にしてきた。冒頭から登場するのは田舎町で迷子になった研磨であり、そこに翔陽が現れて話しかけるといったシチュエーション。以後も試合の展開に挟まれるように、研磨と同じ音駒でミドルブロッカーを務める黒尾鉄郎が、幼い研磨をバレーボールに誘う過去のシーンが描かれていく。

 試合の方も、そんな研磨が作戦を立てて翔陽を次第に追い詰めていくものとなっている。どのような心理で試合に臨んでいるかも含めて、研磨の側に立って試合を観ているような気にさせられる。逆に翔陽の方はレシーブに追われ、攻撃を読まれて跳ね返されて苦しむ様がどちらかといえば半歩下がったところから描かれていて、内心に浮んでいるだろう葛藤はあまり前面に出てこない。

劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦_サブ04(澤村大地)

 まるで『ハイキュー!!』の主人公が変わってしまったかのよう。『THE FIRST SLAM DUNK』で桜木花道ではなく宮城リョータがストーリーの中心にいたことにも似ているが、そこはやはり翔陽であり影山だ。表だっては険悪そうでもプレーについては信頼し合っているコンビぶりを見せて、研磨の計略を力業で突破していく。その強さに打たれ研磨もまた試合の中で徐々に変化し、強くなっていく

 研磨にフォーカスを当てながらも、翔陽や影山といったライバルたちを対比に描き、黒尾をはじめとした音駒の仲間たちを自分を支えてくれる存在として描き、そんな面々によって繰り広げられる試合全体を描いていく。こうした工夫によって、『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』はひとりの冷めた天才プレイヤーが、ようやく熱さを感じるようになるまでを描いた映画になった。シリーズを把握している人はもちろん、これが初見という人でも、独立した1本の映画として楽しめるだろう。

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