松本幸四郎×市川染五郎、親子対談 『鬼平犯科帳』を通して伝えたい時代劇の魅力

松本幸四郎×市川染五郎、親子対談

 1969年に映像化されて以降、初代松本白鸚、丹波哲郎、萬屋錦之介、二代目中村吉右衛門とそうそうたる名優がバトンをつないできた池波正太郎原作の名作時代劇『鬼平犯科帳』が、令和に帰ってくるーー。

 今回、“鬼の平蔵”こと長谷川平蔵を演じるのは、歌舞伎俳優の十代目松本幸四郎。1月8日に時代劇専門チャンネルにて放送されるテレビスペシャル『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』でそのベールを脱ぐ。

 本作は、平蔵が若かりしころの道場仲間・岸井左馬之助(山口馬木也)、本所の無頼者・相模の彦十(火野正平)と再会を果たすところから始まるストーリー。若き日の平蔵・ “本所の銕(ほんじょのてつ)”こと長谷川銕三郎を、幸四郎の長男・八代目市川染五郎が演じることでも話題を集めている。

 5月10日に劇場版公開、5月以降に連続シリーズの放送も決定している『鬼平犯科帳』の魅力を探るべく、幸四郎と染五郎に話を聞いた。(浜瀬直樹)

“親子”で同じ役を演じる面白さ

ーー原作でも「本所・桜屋敷」は人気のストーリーのひとつです。脚本を読んでどんな感想を持ちましたか?

松本幸四郎(以下、幸四郎):“鬼の平蔵”と呼ばれる前の時代の話ですが、彼の若いころの人間らしさを感じて「素敵だな」と思いました。銕三郎時代があったからこそ、平蔵は、火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた/いわゆる凶悪犯罪を取り締まる役職)の長官になったし、親友・左馬之助と出会い、大人になって再会して……と、全てがつながっているので「『鬼平犯科帳』がここから始まるんだ」と感じられる作品だと思いました。

市川染五郎(以下、染五郎):池波先生の作品は、人物描写の細やかさや、キャラクターが一人ひとり粒だっているのが魅力のひとつだと思います。本作でも、登場人物それぞれの個性や色が出ていて、それが魅力につながっていると思いました。

ーー幸四郎さんの祖父(初代松本白鸚)、叔父(二代目中村吉右衛門)、当代、そして御子息と、四代にわたってひとつの映像作品に携わっていらっしゃいますが、非常に珍しいことではないでしょうか。

幸四郎:歌舞伎では同じ役を代々演じることはよくあるのですが、映像では想像できないというか……。叔父が演じていたときは「面白いな。カッコいいな。」と思って観ていましたし、(中村吉右衛門主演『鬼平犯科帳』に)出演させていただいたときも「本物の鬼平がいる!」と思ったくらいですから。

ーー(笑)。

幸四郎:(長らく愛されるということは)『鬼平犯科帳』が普遍的に、いつの時代も受け入れられる作品だということだし、そんな作品に出会えたことは幸せに思いますね。

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ーー『鬼平犯科帳』という作品に対して、どんな印象を持たれましたか?

幸四郎:物語の根幹にある「悪者を捕まえる」ということだけではなく、しっかりとキャラクターも描かれているので「人間ドラマ」を感じる作品だなと思いました。平蔵に関しては、人と相対して正面からぶつかっていく……自分の信念を貫く強さを感じましたね。

染五郎:もちろん、大叔父が主役を演じていることは知っていましたが、今回、こうして出演させていただくにあたって、初めて(中村吉右衛門主演『鬼平犯科帳』から)「本所・桜屋敷」、「血闘」、父が出ていた『鬼平犯科帳スペシャル 引き込み女』を拝見しました。観る前までは“鬼の平蔵”と呼ばれるくらいなので、冷徹なイメージがあったのですが、いざ観てみると、悪に対して厳しくありながらも、人間的な優しさだったり、強さだったりが感じられ、男が憧れる人だと思いました。

ーー染五郎さんは、これまでほとんど語られることがなかった銕三郎を演じられました。役作りはどのようにされましたか?

染五郎:銕三郎時代があるからこそ、父の演じる平蔵につながっていく……ということを意識しました。具体的には、父が『鬼平』関連の本を貸してくれたので自分なりにイメージしたり、大叔父の「本所・桜屋敷」、「血闘」では、大叔父が演じる銕三郎が登場しているので、撮影に臨む前、同じシーンを見返したりしました。平蔵時代との違い、喋り方や人間性など、大叔父の銕三郎を「自分の中に染み込ませたい」と思いながら、演じました。

ーー親子で同じ役を演じられましたが、何か意見は交わしましたか?

幸四郎:息子にプレッシャーをかけるわけではないんですが、『鬼平犯科帳』に出てくる鬼平というのは、とてつもなく偉大であり、銕三郎時代が重要な鍵を握ると思います。彼が、どういう人生を歩んできたかを(視聴者に)お見せすることによって、鬼平と言われる所以を強く感じていただけるんじゃないかと思ったので、そういう話はしました。演じるにあたっては、持っているものを全部出し切って、あとは監督やスタッフの方にお任せする。具体的なことよりも、撮影に向かう際の気持ちや姿勢を伝えました。

染五郎:父の動きを見るのはもちろん、似たシチュエーションのシーンでは、意識して同じ所作をしようと心がけました。細かいところで言えば、小道具の持ち方、お猪口の持ち方を父から聞いて、合わせました。

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