『千と千尋の神隠し』が呼び起こすノスタルジックな“ふるえ” 誇張された涙が意味するもの

『千と千尋の神隠し』誇張された涙の理由

 千尋というひとりの少女の知覚/感覚を軸に描かれているシーンは他にもある。沼の底の駅に住む銭婆と会い別れを告げ、竜の姿のハクと空を飛んでいる時、サブリミナル効果のように水中を泳ぐ千尋の脚が挟み込まれる。幼い頃、川で遊んでいた千尋を助けたのがその川の主であるハクだった、というのがふたりの最初の出会いだったのだが、このカットはまさにその「感覚に刻み込まれた知覚としての」記憶を蘇らせるための描写として描かれている。

千と千尋の神隠し

 見えない、見ることができない、見たはずなのに思い出せない。でも、確かにそこにあるもの。

 これが、『千と千尋の神隠し』という作品の大部分を構成する精神的な要素であり、だからこそ、観客の心の奥深くに訴えかけ、どこか遠くの風景を見ているような郷愁を感じさせ、ノスタルジックな「ふるえ」を起こさせるのである。

 本作を観るときは、心の目を開いて観てほしい。心を解放して、まっさらな状態で観てほしいのだ。そうすれば私たちも千尋のように、きらめく何か小さなものを日常へと「持って帰って」これるだろうから。

■放送情報
『千と千尋の神隠し』
日本テレビ系にて、1月5日(金)21:00〜23:34放送
※本編ノーカット
原作・脚本・監督:宮﨑駿
音楽:久石譲
声の出演:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、内藤剛志、沢口靖子、神木隆之介、菅原文太
©2001 Studio Ghibli・NDDTM

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる