2023年を振り返るアニメ評論家座談会【前編】 “宣伝戦略”の重要性にみる時代の変化
『葬送のフリーレン』のヒットから考えるアニメ世代の高齢化
藤津:一方で、その表象を楽しむ世代の人にうまく合った作品が、9月より放送された『葬送のフリーレン』なんじゃないですかね? 原作は少年誌での連載ですけど、温度感が中年向けのところがあるなと(笑)。熱くならないし、むしろ静かに静かに進んでいく。そういう意味では、『君たちはどう生きるか』然り、アニメ産業にも若干高齢化の印象があります。2000年頃、日常系アニメという言葉が広まる以前に、一時、大きな出来事が起きない作品が増えた時期がありました。この時もその理由として、アニメファンの平均年齢が上がっているからでは? という話がありました。結果として、その後の様子を見ると、ドラマチックな作品もヒットしているので、その考察が正しかったかどうかは難しいところなのですが。とはいえ1983年にビデオアニメが登場し、今も映像は配信会社によって売られていますが、そうやって映像を追いかけてきた人たちももう初老。いわゆる一般層は広がっても、コアなアニメファンの平均年齢はじわじわと上がっているはずなんです。今の40代ぐらいまではテレビも観るし、X(旧Twitter)も使うじゃないですか。だからテレビ放送すると反応があるけれど、今の20代が10年後にテレビを観ながらSNSで実況するかは疑問です。今、「地上波で放送する方が良い」という意見はよくわかるけれど、今後10年で変わるだろうと思っています。テレビ局の編成局中心主義的に考えると、アニメは、配信でもって最終的にビジネスが成立する形になったことで、編成局中心のビジネスとは関係なく成立するようになっています。だから映像事業局的な方法論で、放送外収入を見込んで、『葬送のフリーレン』に日本テレビが力を入れているという形になっているわけです。日テレは様々なアニメ関係会社に出資していたりするけれど、あまりシナジーは感じられなかった。逆に先日まで資本関係がなかった、特にジブリと縁が深く、『金曜ロードショー』で数字を稼ぐこともありましたし。ところが、『葬送のフリーレン』では株を持っているマッドハウスに話題の原作を当て、しっかりとヒットする構造を作った。TOKYO MX発の『鬼滅の刃』を持ってきたフジテレビより積極的だと思います。
杉本:テレビ局的な事情の話をすると、放送視聴率による放送収入がもう右肩下がりで、これは復活しないことがもう明白になっています。今テレビ局が力を入れてるのは放送外収入。それは配信だったり、IP展開だったり、イベント展開だったり……いろいろあるんですけど。こういうのを、アニメの人気作品が1個あると一手に回せるんですね。なので、どこのテレビ局の決算資料を見ても、アニメに力を入れると書かれています。その一番わかりやすい例が、やはり『葬送のフリーレン』ですよね。『金ロー』で、第1話〜第4話まで放送したのは象徴的です。その後も金曜23時からの放送枠として新設された「FRIDAY ANIME NIGHT」枠で放送するなど、結構浅い時間に設定をしてきましたよね。テレビ局のリーチ力がまだある段階で、アニメの話題を作ることによって、 長期的にIPを展開していく戦略になっているんだと思います。藤津さんがおっしゃるように、10年後のことを考えるとテレビ局は今、中心事業をピボットさせないと間に合わないかもしれない、そういう危機感があると思います。
藤津:厳密には2023年の話題ではないですけど、めちゃくちゃ当たった『SPY×FAMILY』は、テレビ東京ではタイムシフト視聴率(録画などで見る人)がとても高くて、それで子供にも火がついて、小学生に『SPY×FAMILY』のファンが大勢いる形に展開できました。こういう形は、歴史的に言えばやっぱり読売テレビの存在が大きく、『名探偵コナン』を四半世紀でここまで大きく育てた背景もあります。元からヒット作ではありますが、 ここ10年〜15年で、どんどん右肩上がりに興行成績を伸ばして、ついに2023年は『名探偵コナン 黒鉄の魚影』で100億に届きましたし。
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渡邉:あと『葬送のフリーレン』でいえば、“冒険が終わった後の物語”というオープニングがやはり象徴的です。『すずめの戸締まり』にも似たテイストを感じましたが、「大きな物語」が終わった後にも、日常が続いていくという構成はすごく「令和的」な感じがします。いわば未知の冒険に旅立つ姿を描いた昭和や平成のファンタジーが、レヴィ=ストロース風に言えば「熱い社会」の物語だったとすれば、「戸締まり」や「冒険の終わりから始まる物語」というのは、いかにも令和的な「冷たい社会」の物語でもある。それは、『PUI PUI モルカー』のような最近のショートアニメ人気にもある種繋がるような要素でもある気がします。いわゆる「タイパ」という流行キーワードとも関連しますが、世の中がどんどん変わり、お金が回らなくなっている中で、コンテンツや物語、表現のあり方も変わっていると思いました。
杉本:残りの余生をどう過ごすかみたいな……(笑)。
渡邉:そうです(笑)。いかにも、社会全体が「余生」みたいな時代を象徴する物語だと思いました。
新トレンドとして定着しつつある「初回3話一挙放送」
ーー連続アニメにおける「初回3話一挙放送」が新しいトレンドとして定着しつつあります。この流れにはどのような背景があるのでしょうか?
杉本:今はアニメの作品数がすごく多いので、まずアテンションを取るだけで大変なんですよね。なので、アテンション合戦の末に出てきたネタっていうのが1つあると思います。 それこそ、『金ロー』で連続アニメが放送されたことはまさに典型的ですよね。 とはいえ、正直『葬送のフリーレン』の最初の4話をまとめて観る意味って、どれくらいあるかなと疑問に思いましたが……。その点では、『【推しの子】』はよかった気がします。
藤津:めちゃくちゃわかります(笑)。ただ、1話ずつだと「やっぱり地味だな」って観なくなる人の脱落率が上がるんだと思います。だから4話まで一気に観てもらって、キャラクターに親しみを持ってもらう。内容的にふさわしかったかどうかは別かもしれないですが、マーケティング的には正しかったように個人的には思いました。
杉本:それは大きいと思いますね。話は戻りますが、『【推しの子】』は日本だと映画館での先行上映の形をとってましたが、海外では配信だったんですよ。その後の話題のなり方が爆発的だったんですよね。内容も相まって、90分のインパクトと言いますか。多分、これがなかったら海外であそこまで当たらなかったと思うのでマーケ戦略的にも大成功です。