『海に眠るダイヤモンド』斎藤工の笑顔が忘れられない “物語”ではなくなった端島の歴史

『海に眠る』進平の笑顔が忘れられない

 覚悟はしていたはずだった。端島で生きた人々が観ていた景色を忠実に再現したドラマなのだから、この先に待ち受けている厳しい史実も描かれているのだろう、と。だが、その起こった悲劇を文字で読むのと、こうして愛着が生まれた人々の苦しい表情とともに見届けるのとでは、全く異なるものだと痛感した。想像していた以上に胸が痛い。その観る者の心に訴えるものこそが、ドラマの持つ力なのだと再認識した回だった。

 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)第7話のサブタイトルは「消えない火」。1964年、端島が閉山へと向かう大きな転換点となった坑内火災事故が起きる。自然発火による火災は、一旦は火を抑え込むことに成功したかと思われたが、再びガス燃焼が発生。何人もの炭鉱員が怪我をした。そのなかには、鉄平(神木隆之介)の父・一平(國村隼)も含まれた。

 そのころの端島は、まさに華のときだった。鉄平の兄・進平(斎藤工)とリナ(池田エライザ)の間に生まれた息子・誠は、すくすくと育って1歳に。その健やかな姿、そして思わずこぼれる家族の笑顔と、「次は七五三だ」なんていう平和な会話に、鉄平の母・ハル(中嶋朋子)が「お父さん、私たちたくさんなくしたばってん。こん年になって、まだこがん幸せがあるってねぇ。長生きするもんたいね」と涙を流した姿に、こちらまで目頭が熱くなってしまった。

 あの戦争で大事な人を亡くして、思い描いていた幸せな未来を失くして……。それでも変わらず朝はやってきて、とにかくその日その日を必死に生きてきた人たちが、やっと報われつつあったときだったのだ。長崎の原爆に巻き込まれた百合子(土屋太鳳)は、島民との間にすれ違いに肩身の狭い思いをしていた賢将(清水尋也)とお互いを支え合うように結婚した。端島で育った2人が新たな家族を作る。まさに華が咲いて、実を結んだといえる。そして「端島をもっと良くしたい」と走り回る鉄平も、朝子(杉咲花)と思いを通わせ、いよいよ結婚、というところまできていた。

 ようやくたどり着いた幸せな日々。だからこそ、そのキラキラした日々の終わりが始まりかけていることに涙が込み上げてきた。どうして、幸せは実を結ぶまでにこんなにも時間と労力がかかるのに、壊れるのはあっという間なのだろうか。坑内の火災は3日間の懸命な消火活動をもってしても消えない。直接消火を諦め、空気を遮断する密閉消火に切り替えることに。決断をするのは、賢将の父で炭鉱長の辰雄(沢村一樹)だ。

 かつては、どこか端島の人間とは距離を取るように生きてきた辰雄だが、一平との間には友情に近い信頼関係が育まれていた。炭鉱員として坑内で人生をかけて炭を掘ってきた一平と、炭鉱長として端島の繁栄を支えてきた辰雄。かつての2人は見えているものが違った。けれど、今は同じ思いを抱えている。端島があってこその今の幸せ。端島は人生そのものだ、と。

 だから、本社からの指示だけで動くわけにはいかなかった。辰雄は連絡に出られないふりをして時間稼ぎをし、一平たちの思いを組む。あと2時間もあれば、密閉作業は完了し、火が消えるはず。その最前線にいるのは、みんなが頼りにしている進平だ。だが、残念ながら密閉作業は失敗に終わり、さらなる怪我人が出ることに。進平もまた負傷しながらも、まだやれると仲間を鼓舞していく。

 そんな進平の姿が目に浮かぶのだろう。一平は「せがれが頑張っている」と、辰雄に迫る。だが、辰雄はこれ以上の作業は中止しようという。「島、守る気ねぇのか?」と食って掛かった一平に、辰雄が「守りたいんです、島も、命も。失いたくないんです、誰ひとり」と目を真っ赤にして反論する姿に、初めて彼の心の奥底に触れたような気がした。

 もしかしたら、あの戦争で辰雄の子どもがひとりも死ななかったのは、何よりも命を最優先にするという思いが人一倍強かったからかもしれない。あの時代に、それを貫くのはむしろ難しいことだったのではないだろうか。だが、どんなに立派な志も誇りも、死んでしまったら終わってしまう。命があれば、また積み上げていくことができると信じていたのだろう。そして「長生きするもんたい」と泣き笑いできる瞬間を迎えることができるはず。一島一家、今や辰雄にとって端島に住む人は、誰ひとり亡くしたくない家族。だから、誰も死なない決断をするのだった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる