『室井慎次 生き続ける者』の結末に感じた悲しさ 『踊る大捜査線』新作に望む“原点回帰”
現在公開中の映画『室井慎次 生き続ける者』に青島俊作役として織田裕二がサプライズ出演。さらに、青島も登場する『踊る大捜査線』シリーズ最新作、『踊る大捜査線 N.E.W.』が2026年に公開されることが決定した。
11月8日から10日にかけての3日間に全国の劇場で開催された先行公開時点より、ファンの間で話題を呼んでいた青島の登場。物語終了後のポストクレジットシーンで緑のモッズコートの後ろ姿が現れた瞬間、劇場がざわめきたったことが印象深い。本稿では改めて『室井慎次 生き続ける者』(以下、『生き続ける者』)についてネタバレを交えながら振り返り、青島の登場についても再考したい。
※本稿は『室井慎次 生き続ける者』のネタバレを含みます。
前編である『室井慎次 敗れざる者』(以下、『敗れざる者』)では警察を引退した後の室井慎次(柳葉敏郎)の姿が新鮮に映し出されていた。カッチリとした東京の警察署の中で現場と上層部の間で常に戦っていた室井の姿ではなく、泥にまみれながら畑を耕し、里親として子どもと真摯に向き合うこれまで見たことのない室井の姿は新しさに満ちていた。一方で事件らしい事件は起きることもなく、さまざまな伏線となりうる要素が随所にちりばめられており、これらが後編である『生き続ける者』で回収されるのだと期待を寄せていたファンも多かったのではないだろうか。
そうした『敗れざる者』でちりばめられた伏線が、『生き続ける者』で上手く回収されなかったことは本作の残念だと言わざるを得ない点だ。
例えば『敗れざる者』で見つかった死体が『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!!』(以下、『THE MOVIE 2』)の犯人グループの一人であることは『敗れざる者』から示唆されており、『生き続ける者』では犯人グループの逮捕に当たって室井が警察に復職、あるいはなんらかの形で協力することとなるエピソードを期待していたファンも多かっただろう。実際『生き続ける者』では室井さんが警察に協力する展開にはなるものの、『THE MOVIE 2』との繋がりが本質的に機能していたとは言い難い。
また、『踊る大捜査線 THE MOVIE』で登場して以来、シリーズを通して最大のヴィランとして君臨しつづけてきた日向真奈美(小泉今日子)が『生き続ける者』にも登場。『敗れざる者』ではその娘である日向杏(福本莉子)が室井の家に訪れ、室井と同居しているタカ(齋藤潤)とリク(前山くうが、前山こうが)を自身の母親と同じように“洗脳”していく様が描かれ、『生き続ける者』で杏がどう更生するのかは『敗れざる者』を鑑賞した直後に多くの観客が期待していた部分である。『生き続ける者』で杏は実の母である日向真奈美に洗脳されていたことが明かされ、室井は猟銃を杏に発砲させ、人を殺めることの恐怖を実感させることで更生させるのだが、これは恐怖をさらなる恐怖で上塗りしているようにも見えてしまう。つまるところ本作は物語が面白くなりそうなさまざまな要素こそちりばめられているものの、それらが上手く噛み合わないまま進んでしまうのが最大の難点なのだ。