『トクメイ!』橋本環奈が佐藤二朗の暴走を阻止 刑事ドラマに新風吹かせた経理の視点
『トクメイ!警視庁特別会計係』(カンテレ・フジテレビ系)最終話は、なくなった一円玉が長い旅路を経て戻ってきたような感慨を抱かせた。
脅迫者Xの正体は須賀(佐藤二朗)だった。死んだ芹沢詩織(石井杏奈)の父親である須賀は、娘の命を奪った榊山(福井晶一)たちに復讐するため、警察上層部の違法な行為を告発し続けた。須賀は、拘束された湯川(沢村一樹)に詩織との過去とXに姿を変えた理由を話す。須賀は若い頃、詩織の母親と交際していたが別れ、ほどなくして産まれたのが詩織だった。組織的に裏金づくりが行われていることを突き止めた詩織は、須賀に協力してほしいと頼むが、須賀は詩織に手を引くように促す。しかし詩織は聞き入れず、そのやり取りが親子の最後の会話となった。
「俺が詩織を殺した」と後悔の念に苦しむ須賀は、脅迫者Xとして警察内部から不正を追及。須賀の復讐は最終段階に入り、榊山に直接手を下そうとしていた。須賀の暴走を止めるには、裏金庫の場所を特定し、須賀に先んじて榊山たちの不正を暴くしかない。須賀が予算会議に現れると予想した円(橋本環奈)は、会議の場で裏金づくりの実態を知らせようとするが……。
ドラマが佳境を迎えたさなかでも小ネタが差しはさまれる『トクメイ!』の芸風は、最終話でも健在だった。松本まりか演じる藤堂のなんちゃってカンフーアクション。榊山を殺そうとする須賀を円が止めようとする場面で、湯川と円が恒例の1円トークを始め、殺気立った空気がふっと和んだ。話がお金のことになると、ところかまわずスイッチが入る円のキャラは第1話から終始一貫していたが、個人的に一番笑ったのは、ゆるキャラポジションの中塚(鶴見辰吾)が会議中に突然声を荒げて周りがキョトンとするシーンだった。
笑いにまぎれて本来のテーマがあやふやになってしまうなら再考の余地があるが、『トクメイ!』に関して言えば、その心配は不要だった。最終話では、正義のありかをめぐって円と須賀、湯川が対峙する刑事ドラマの王道展開が見られた。それが教条的でお仕着せの大上段から振りかぶる大文字の正義にならなかったのは、多分に笑いの効用が大きいと思われる。警察という権力構造に宿る人間的な要素を本作の笑いは体現していた。