『ブギウギ』スズ子と愛助の“歳の差恋愛” トイレを巡って起きた笑いの愛おしさを考える
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』もついに、本格的な“恋愛パート”が描かれ始めた。近年の朝ドラでは、ほぼお決まりと言っていいほど、主人公の恋愛模様にフォーカスが当てられる章が存在し、本作も例に漏れていないのだが少しだけ従来のそれと雰囲気が違う。
空襲警報中にヒロインがお腹を壊してトイレから出て来ず、そんな切羽詰まった状況で相手の彼が初めて彼女の名前を呼び、その後なにごともなくて家に戻ったらまたお腹が痛くなって、トイレから戻ってきた彼女を彼が笑って、それを笑ってくれた彼に彼女が愛を感じて、二人でキスをする。こんなシーン、これまでの朝ドラにあっただろうか。なんだかすごいものを見せてもらった。
第12週は、スズ子(趣里)が9歳下の愛助(水上恒司)との恋愛にどう向き合うかについて描いた。彼の熱意を受け取り、いつしか自分も彼のことを本気で好きになり始めたスズ子。その想いは、学徒出陣の報せを新聞で読んだ時により立体的なものになった。身体が弱い愛助が出征することはないが、それを知らなかった彼女は思わず彼の元に向かい、自分の想いを告げる。スズ子は彼の学徒出陣に対する罪悪感を考えた上で、最終的にどうしたいのか愛助の気持ちに判断を委ねた。
正式な付き合いが始まってからも、スズ子の様子から彼女が常に“歳の差恋愛”であることを自覚した上で、愛助のことを大切にしていたのがわかる。若い子のウブな気持ちを利用するような大人じゃなく、むしろ自分にとっても初めてである恋を大切にしていたのが印象的だ。最後のキスシーンのぎこちなさからして、あれは恐らく二人にとっての初キスなのかもしれない。
彼らの交際期間を考えてみると、愛助との出会いは昭和18年の初夏、そして10月に学徒出陣が始まった頃に交際開始、昭和19年の3月から年の暮れまでの期間に愛を育んでいたことになる。それでも、その時間とあのキスを照らし合わせてみるとやはりスズ子が相手のことも、そして自分自身のことも大切にしながら二人でやってきたのだなと感じられた。
スズ子はもともと愛助のことを「学生さん」と呼んだり、家に誘われても最初は断ったりと、適切な距離感を持って過ごしていた。そこには常に彼に対する「歳下」という眼差しがあると同時に、「歳下でも」関係なく相手を敬う心が窺える。むしろ自分より若くても学があってしっかりしている、大人びた一面を持ちながらも年相応の実直さが垣間見える愛助だから惹かれたのだろう。
しかし、愛助の母・トミ(小雪)から交際を反対された時、とにかく「スズ子さんと付き合いたい!」という気持ちの一点張りになったり、「結婚はまだまだ先のこと」だと思っていることを何も考えずに発言する様子はやはり幼い。彼にとっては先のことでも、30歳のスズ子にとっては適齢の話なのだから。そんな愛助の言葉に少し思うところがありつつ、何も言わないで困った顔でいる間を作る趣里の演技が細かくて良い。
年齢差関係なく、穏やかに美味しいものを食べて微笑み合う二人の日々。年齢が上だからスズ子が優位になるとか、歳下だから愛助が甘えるとかではなく、あくまで対等な相手として築き上げた時間は、東京に爆撃機がいつ来襲するのかという恐怖のなかで二人の愛を深めた。その結果が、トイレを巡って起きた笑いなのだ。