『セクシー田中さん』は背筋を伸ばしたくなる名作 木南晴夏×生見愛瑠の“本気”が心に響く

『セクシー田中さん』は背筋を伸ばしたくなる

 23歳の朱里と40歳の田中さんは、年齢も来し方もキャラクターもまったく異なるが、共に自己肯定感が低い。朱里は、女性性を値踏みする言葉である「かわいい」よりも、人間としての評価である「カッコいい」と言われたい。だから田中さんに憧れ、自分も変わりたいと願う。けれど田中さんは、「Sabalan」のマスター・三好(安田顕)に思いを寄せ、「好きな人にだけは『かわいいね』って頭を撫でられたい」と涙を浮かべる。この対比が面白い。

 「属性の枠」にとらわれない田中さんの生き方は、昭和脳男の笙野の捻じ曲がり凝り固まったプライドさえも解いていく。「女はこうあるべき」という偏見まみれで、女性に失礼なことを言う天才の笙野は、田中さんと会話を重ねるうちに何かが変わっていく。笙野が田中さんに投げかけた「なぜベリーダンスなのか」という問いに対する田中さんの答えがカッコよすぎて、笙野も、そしてテレビの前の私も胸を撃ち抜かれてしまった。

「ベリーダンスって、これが正統だって言いきれる正解の形が見えないんですよ。起源もいまいちあいまいで多種多様すぎて。(中略)正解がないから迷うんです。自分がこうありたい正解を自分で選び取るしかない。自分の頭で考えて選んだ結論って、誰に何を言われても揺るがないじゃないですか。私は自分の頭で考えて、自分の足を地にしっかりつけて生きたかった。多分、だからベリーダンスなんです」

セクシー田中さん

 踊りは自由だ。自由だからこそ自分でスタイルを選び取り、自己を研鑽して選んだ道を極める。人生もかくのごとし。田中さんの「本気」が、周りの人々の心にひとつずつ火を灯していく。

 しかし田中さんも決して聖人君子ではなく、迷える一人の不完全な人間として描かれている。第6話では、還暦を超えた現役のカリスマ・ベリーダンサーの愛子(未唯mie)が登場して波乱の予感。愛子は二十数年前に三好をベリーダンスの世界へと誘った人物で、三好が「特別な人」と語る女性。2人は昔恋人同士だったとの噂もある。そんな愛子に対して、田中さんは初めて嫉妬の感情をあらわにする。

「若い女の子なら仕方ないって思えるけど、私より20も年上なのになんで?って。普段自分が若い子から『オバさんのくせに』って言われたら嫌な気持ちになるのに、結局自分の中にもそういう価値観があるんだって、みっともなくて自己嫌悪になるんです。

 そんな田中さんを、朱里は励ます。

「私にとっては田中さんが最高です。笙野もそうですよ。(中略)全部全部田中さんが魅力的だからですよ。だから……だから、背筋を曲げないで」

 性別・年齢・属性から解放されて自由になるためにはどう生きたらいいのか。いろんなことを考えさせられる。そして、何歳でも、どんな属性でも、みんな自由に自分らしく生きていい、自分の人生は自分が決めるのだと、田中さんと朱里がそっと教えてくれる。観終わったあと、顔を上げて背筋を伸ばしたくなるドラマだ。

■放送情報
日曜ドラマ『セクシー田中さん』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:木南晴夏、生見愛瑠、毎熊克哉、川村壱馬(THE RAMPAGE)、前田公輝、高橋メアリージュン、生駒里奈、なえなの、円井わん、坂ノ上茜、水沢エレナ、星乃夢奈、平野沙羅、西田麻耶、安田顕
原作:芦原妃名子『セクシー田中さん』(小学館『姉系プチコミック』連載中)
脚本:相沢友子
チーフプロデューサー:三上絵里子
プロデューサー:大井章生、田上リサ(AX-ON)
演出:猪股隆一、伊藤彰記(AX-ON)
音楽:日向萌
主題歌:「ドレスコード(Prod. imase)」LE SSERAFIM(ユニバーサルミュージック)
©︎芦原妃名子/小学館/NTV
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