『呪術廻戦』伏黒恵が命を賭して呼び出した式神とは 術式「十種影法術」を紐解く
漏瑚と宿儺の壮絶な戦いが描かれたアニメ『呪術廻戦』第40話「霹靂」。原作よりも長く、丁寧にあらゆるシーンを舞台に描かれた伏黒恵と甚爾の戦いと、漏瑚と宿儺の戦いは美しすぎた。
絵コンテ・演出・作画(フーガの炎の大部分)を担当した土上いつきは奥行きを感じさせる空間を意識したアクションを得意とすることで知られており、これまでもその手腕を『王様ランキング』や『モブサイコ100 II』の第11話など数々のアニメで発揮してきた。今回は原作の絵に寄せて極力影を少なくするなど作画面でこだわりを見せている。甚爾が倒れるまでの伏黒親子パートと家入のシーン、それらに付随する3D美術設定のスクラッチ、工場現場内での戦闘や、外に出てからの屋根上での戦闘、オフィス、そこから甚爾の落下までのシークエンスのコンテの描き直しや色調整などは温泉中也が担当。漏瑚の山場のシーンは原画のほとんどをグレンズそうが担当している。特に第2期の『呪術廻戦』は、こんなふうにアニメーターの個性が強調され、エピソードごとに雰囲気が割と変わるのが面白い。
果敢にも挑む脱兎、それを軽くいなす甚爾。オリジナル描写をふんだんに盛り込みつつ、一度は五条悟を圧倒させたその力の差を、2級術師でしかない伏黒との戦いで見せつける。ファンを楽しませる原作にない独創的なアクションの丁寧さは、漏瑚と宿儺戦における温度計や溶けるガラス、マグマが溢れ出すマンホールなどの細部にも感じられた。もちろん、コミックでも漏瑚と宿儺は渋谷全体を使ってバトルを繰り広げているわけだが、映像で見るとどれだけ街がめちゃくちゃになっているのかわかりやすい。これが本当の“渋谷メルトダウン”か……と膝を打ったものだ。
神作画に魅せられた第40話は、不穏なラストで幕を閉じた。甚爾との戦いを経て、家入に直してもらう前提で傷を負った伏黒を背後から攻撃した呪詛師の重面春太。七海建人にボコボコに殴られ、最終的に松濤通りの「俺流塩ラーメン」の看板を食らって死んだように思えたが、実際は安否不明だった重面。結局は生きていて、前回と同じように弱い者をいじめる卑怯なやり方で伏黒に追い打ちをかけた。しかし、ラストシーンでは渋谷109前で意識を失った伏黒に怒鳴りながら、彼が“何か”に迫られている様子が切り取られている。伏黒に責任があるかのような重面の物言いから、その“何か”は伏黒が召喚したものだと考えて良いだろう。
伏黒の術式、「十種影法術」は名にある通り10種類の式神を自分の影を媒介にして召喚することができる。禪院家相伝の術式の一つであり、甚爾と禪院直毘人が過去に取り引きをしていた回想シーンからも、相伝術式を持つことがどれだけ価値のあることか窺えるのだ。
伏黒はこれまでにも戦いの際に式神を出してきた。第1話から登場している玉犬は特にヘビーユーズしていて、彼の相棒に近い式神である。残念ながら少年院の特級呪霊によって白は破壊されてしまった。破壊された式神は2度と顕在させることができず、伏黒は玉犬・白の他に宿儺との戦いで初出しの大蛇を壊されている。玉犬・黒は後に、破壊された白の術式と呪力を継承させた形で渾(こん)にレベルアップ。高専に侵入した花御との戦いで、その強さを見せつけた。他にも序盤から電撃攻撃や空中移動の役割を担う鵺(ぬえ)や、拘束の補助ができる蝦蟇(がま)、大量の水を放出させる重量型の満象(ばんしょう)が登場。「渋谷事変」に突入してからは、呪詛師・粟坂との戦いで脱兎(だっと)を召喚していた。つまり今のところ、10中6種類の式神が姿を現しているわけだ。ちなみに玉犬は二頭で一つの式神換算だったり、蝦蟇と鵺を足した不知井底(せいていしらず)や渾など他を掛け合わせることで生まれる式神は一つに換算されなかったりする。
余談ではあるが、破壊された玉犬・白の額には道返玉の紋様が、今も元気な黒の額には死反玉の紋様が刻まれており、この二つは『先代旧事本紀』に登場する10種の宝物「十種神宝」として知られている。この「十種神宝」がそれぞれの式神の元ネタのようなものになっており、なんと伏黒が常に捨て身の奥義として残している「布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら……)」に始まる呪文もこれに関係しているのだ。