『呪術廻戦』なぜ宿儺は伏黒恵に固執するのか 『日本書紀』に登場する“モデル”との共通項
呪いの王が、渋谷で目を覚ました。アニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」も折り返し地点となってきたが、第39話はおそらくこれまでの放送の中で最も衝撃的な展開を描いたのではないだろうか。陀艮を滅多刺しにして祓った伏黒甚爾、彼に次の戦いを挑まれた伏黒恵、漏瑚によって“身体を燃やされた”七海建人、禪院直毘人、禪院真希。そして宿儺に手首と頭を切られた漏瑚、惨殺された美々子と菜々子。1話の中で、あまりにも怪我人、死者が多すぎる。
宿儺が表に出るのは第1期の少年院での出来事以来だ。あの時、虎杖悠仁は意図的に肉体の主導権を宿儺に渡していた。そして宿儺は目の前にいた特級呪霊を殺し、伏黒の前に立ちはだかる。今思えば、伏黒は当時指3本分の力とはいえ“あの”宿儺とタイマンを張ったのはすごい。何かを要求すること、ましてや息をすることも憚られる。そんな畏怖の象徴が、高専1年生の2級術師と手合わせをして“あげた”ことは異常だった。
もちろん、彼に要求や命令ではなく“お願いごと”をした美々子と菜々子の末路を考えると、宿儺が生やさしい性格であるわけもなく(そもそも第1話で復活した直後に女子供を鏖殺しようとワクワクしていた奴なので)、明らかに伏黒に対する“贔屓”が見て取れる。それどころか、戦いの最中で「場を広く使うこと」を教えたり、応用の聞く伏黒の術式を良いものだと褒めたりしていた。特に、彼が最後に自分の命を懸けるほどの大技を出そうとした時(「布留部由良由良(ふるべゆらゆら)……」)は大いにテンションを上げていたものだ。
宿儺が伏黒に“固執”しているような様子はその後にも何回か描かれた。例えば八十八橋での任務中、伏黒が領域展開に成功した時に「良い、それでいい」と褒めている。そして第39話で漏瑚に“指の礼”として一撃でも自分に当てられたら、呪霊側につき、手始めに渋谷の人間を“一人を除いて”皆殺しにしようと持ちかけていた。その“ひとり”が伏黒恵であることも、もはや明白だ。
ではなぜ、伏黒なのか。それは彼に秘めたる“ポテンシャル(可能性)”があるからだろう。それを証明するかのように、その場で最も強い者をターゲットにする殺戮マシーン・伏黒甚爾に選ばれたのだから。つまり彼は一級術師の七海よりも、特別一級術師の直毘人よりも強いと認識されたのだ。もちろん、彼らが満身創痍だったこともある。それでも伏黒がこれほどまでに、作品の中でも最強レベルの登場人物からこぞって注目を受けていることは意味のあることだと思っていいだろう。