『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の共演はなぜ実現した? シリーズの経緯を解説

『スパイダーマン』シリーズの経緯を解説

 先週に引き続き、11月10日に『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が、日本テレビ系『金曜ロードショー』枠で放送されます。本作を楽しむためには、今までのスパイダーマン映画の流れを知っておいた方がいいので、今回はそこを中心に解説します。

 実写のスパイダーマン映画というのは、大きくわけて3ラインあります。2002〜2007年のトビー・マグワイア主演、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』3部作。2012〜2014年のアンドリュー・ガーフィールド主演、マーク・ウェブ監督の『アメイジング・スパイダーマン』2部作。そして、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のトム・ホランド主演版スパイダーマンです。トム・ホランド版だけ書き方が違うのは、後で説明します。

 なお、これを読んでいる方の中には、もっと前に劇場でスパイダーマンを観たという方がいるかもしれませんが、その作品はアメリカではTV放送した作品を日本や他の国では劇場公開したものなのでカウントしていません。同じ理由で、東映版スパイダーマンも1978年の「東映まんがまつり」のプログラムとして劇場公開されましたが、これも入れていません。

 以上からわかるとおり、スパイダーマンというのは2002年から劇場をにぎわせてきたのです。いずれも製作・配給はソニー・ピクチャーズです。ソニー・ピクチャーズの前身であるコロンビア・ピクチャーズは、前述の“日本では劇場公開されたTV版スパイダーマン”の配給をしていたので、スパイダーマンについての権利はこのときから持っていたのでしょう。

 まず先駆けとなったトビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』(2002年)は、歴史に残る大ヒットとなりました。公開直後の3日間の興行収入が1億ドルを突破するという快挙を初めてやってのけた作品で、社会現象となりました。シリーズ化され3作品が作られますが、3作目の出来や評価をめぐってサム・ライミ側と映画スタジオの関係がこじれ、予定されていた『スパイダーマン4』はキャンセルとなります。

 そしてソニー・ピクチャーズは新たなスパイダーマン映画に着手するわけですが、違う監督・キャストで『スパイダーマン4』を作るのではなく、スタッフ&設定を一新して新たなスパイダーマン映画を作ることを決意。それがアンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)でした。こういう仕切り直しをリブートといいます。このリブートには前例があります。ワーナー/DCが『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年)で一旦バットマン映画を終わらせ、2005年にクリストファー・ノーラン監督による『バットマン ビギンズ』を発表し成功を収めたのです。

 『アメイジング・スパイダーマン』路線も前3部作に負けない魅力的な作品でしたが、ここで複雑な事情が出てきます。マーベルが自社で映画製作に乗り出し、その第1弾である『アイアンマン』を公開。これを皮切りに次々とマーベルヒーロー映画が発表されます。そして2012年の『アベンジャーズ』を核とするMCUを確立しました。さらにマーベルはディズニー傘下にもなったのです。スパイダーマンも元はマーベル・コミックのヒーローですが、マーベル自身がこうした動きをする前に、ソニー・ピクチャーズに映画権を渡していたのです。従って、ソニー・ピクチャーズ発の『アメイジング・スパイダーマン』路線、ディズニー発のMCU『アベンジャーズ』路線という、映画会社の異なるマーベル映画が存在することになりました。

 しかし、コミックではスパイダーマンもアベンジャーズも同じマーベル世界の住人なので彼らが共演するエピソードはいっぱいあり、映画でもスパイダーマンとアイアンマンが共演するところを観たい! との声があがります。そこでソニーとディズニーが画期的な取り決めをします。スパイダーマン自体の映画化権はソニーに残したまま、スパイダーマンをMCUの住人としてMCU映画に登場させることができる(また、ソニーのスパイダーマン映画にMCUの他のキャラが登場できる)というものです!

 これを実現させるため、ソニーは『アメイジング・スパイダーマン』路線をストップし、MCU対応の新たなスパイダーマンを登場させます。それが、トム・ホランド演じるピーター/スパイダーマンです。

 トム・ホランド版は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年)でデビュー。以後、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)、そして本作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022年)と続きます。

 ややこしいのですが、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』はディズニー映画(MCU映画にスパイダーマンが特別出演しているという位置づけ)で監督はルッソ兄弟。『スパイダーマン:ホームカミング』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はソニー・ピクチャーズ映画で、ジョン・ワッツ監督が担当しています。

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