木南晴夏×生見愛瑠のシスターフッドが解き放つ偏見 『セクシー田中さん』は男性こそ必見
10月22日よりスタートする木南晴夏主演の日本テレビ系新日曜ドラマ『セクシー田中さん』。本作は、小学館漫画賞を獲得した『砂時計』『Piece』など、メディア化作品を多数代表作に持つ芦原妃名子の同名漫画を原作としたラブコメディだ。純愛からサスペンスまで作風は多岐にわたるが、どの作品でも人間の深層心理を鋭くかつ繊細に描き出してきた芦原。そんな彼女の最新作となるこの物語には、“市場価値”という言葉に振り回されている男女が登場する。
市場価値とは、自分を商品として考えた時の世間から見た価値のことで、私たちは大人になるとその言葉を意識せずにはいられない。子供の頃はただ生きているだけで周囲にちやほやされていても、人生のステージが上がっていく度に人からジャッジされる場面が増えるからだ。希望する学校に進学するためにはそれ相応の学力が必要で、就職活動の際にも学歴に加えてスキルや経験が問われる。恋愛や婚活市場では、パートナーになり得るかどうかを学歴、収入、容姿、年齢、性格など複数の観点から総合的に判断され、市場価値という抜け出せないループにハマっていく。「生きてるだけでえらい!」と自分を褒めてあげられたらいいけれど、世間はなかなかそう思ってくれないのが現実だ。
生見愛瑠が演じる朱里も、自分の市場価値を常に意識しながら生きている。就職活動で苦労した末に派遣OLとなるが、とても生き抜いていけるとは思えない初任給に絶望。安定した足場=結婚相手を見つけるため、頻繁に出会いの場へ赴いている23歳だ。彼女は「若くてかわいい」という価値を持っている。けれど、本人は自分の価値がそれだけだと思っている。ここが作者の着眼点の鋭さを感じるポイントだ。「若くてかわいい」女の子はそれに甘んじていると思われがちだが、今時の子は意外と冷静。「若くてかわいい」という価値はどんどん失われていくものだと自覚しているからこそ、「若くてかわいい」うちにその価値を認めてくれる、手堅く無難な相手を見つけようとしている。
2023年4月クールのドラマ『日曜の夜ぐらいは...』(ABCテレビ・テレビ朝日系)では、その整った容姿ゆえに異性からは身勝手な好意を向けられ、同性には嫉妬の対象として遠ざけられてきたが、豊かな感性を持つ20代の女性を演じた生見。彼女自身、“おバカキャラ”というレッテルを貼られることもあるが、非常にクレバーで人の心を大きく動かすその演技は深い読解力とそれを体現するための表現力がなければなし得ない。きっと本作でも巧みに朱里が人知れず抱えている生きづらさや虚しさを表出させるだろう。
そんな朱里が会社で密かに気になっているのが、経理部の先輩である“田中さん”こと田中京子(木南晴夏)だ。仕事は完璧だけど、地味で社内でも浮いた存在であるアラフォーOLの田中さんは同僚たちから“枠外”、“論外”と陰口を叩かれている。彼女が身を置くのは、いわば需要と供給のバランスで価値が決まる市場の外。そもそも選ぶ、選ばれるのスタートラインにすら立っていないと市場から追い出された人として周りから見られており、自分だったら自信をなくして身が縮こまりそうだ。にもかかわらず、田中さんがいつも背筋をしゃんと伸ばしているのは彼女なりの処世術。他人の価値観に身を委ねることなく、自分で自分の価値を決め、胸を張って生きるための準備体操とも言える。