『晩餐ブルース』はオブラートのようにほろ苦い人生を和らげる 食卓を通して描かれた再生

ドラマ『晩餐ブルース』(テレビ東京系)が3月27日に最終回を迎えた。ただ消費されるだけの日々に疑問を抱くテレビディレクターの田窪優太(井之脇海)、人知れず料理人を辞めた佐藤耕助(金子大地)、離婚したばかりの蒔田葵(草川拓弥)。3人の旧友がひょんなことから再会し、心に抱えた傷を晩活(=晩餐活動)を通して癒していく物語だ。最終話は、優太が休職を決断するまでの葛藤が描かれる――。
空き缶を集めるホームレスがニットキャップを落としたのに気づき、迷うことなく駆け寄った優太をみて、思わず声が出た。
なぜならば、それは第1話に敷いた伏線を回収するものだったからだ。
ホームレスは第1話にも登場しているが、優太の目には映らなかった。優太は、空き缶の詰まった前カゴの袋が音を立てて落ちたのにもかかわらず、その横を素通りしている。日々の仕事に忙殺され、身も心もすり減らしていく優太にとって、周りのものはすべてが無色透明だった。冒頭のシーンは、休職という選択が間違いではなかったことを暗示していた。
ほんの少し前まで、そのカードを切るべきかどうか、優太は答えを出せないでいた。せっかく掴んだテレビディレクターの職だ。誰だって悩んで当然である。そんな優太の背中を押したのは、葵だ。
「人生後何年働くのって話じゃん。ちょっとぐらい休む時間があってもいいでしょ」

静かに頷く優太が視線を移すと、そこには菜の花が生けられていた。料理用に買ったものの、使い切れず、花が咲いたので飾ることにしたという。それを聞いて優太はひとりごちる。
「へぇ、なんかいいね。おもむきあって」
料理にならなかった菜の花に優太は自分を投影しており、そして優太は花を咲かせた菜の花に希望をみる。
また別のある日。開店準備でメニューづくりに精を出す耕助はついつい料理をつくり過ぎてしまう(耕助は優太に先んじてリスタートを切っていた。老夫婦が営む飲食店を継ぐことに決めたのだ)。自分たちの胃袋にはどう考えても入り切らない量だ。一計を案じたふたりはそれぞれ友人を招くことにする。

団欒が続くなか、優太はキッチンに立ち、後片付けを始める。耕助が「おれやるから」と声をかけるも、優太は「大丈夫、ここ、いい席だから」と断る。「席?」と鸚鵡返しに言い、耕助が怪訝な表情を浮かべると、優太はあらためてリビングに目をやって「楽しそうだなって思って。こんなパーティみたいなの、何年ぶりだろ?」と感じ入った声をあげる。言わんとするところを理解した耕助は優しく語りかける。「やろうよ。また」。優太は、清々しい目をしている。翌日、休職届けを上司に提出した。
迷いを消し去ったはずの優太だったが、まだ心に引っかかっていることがあった。自分の抜けた穴を埋めるためにいままで以上に忙しくなるだろう同僚のことだ。
「あの、あらためてすいません。いろいろ迷惑かけちゃうんですけど」
そう切り出す優太に上野ゆい(穂志もえか)は言う。
「大丈夫だって。忘れちゃってたけど、本当はもっと掛け合っていいものだもの、迷惑って。(振り返って)だからマジで気にすんな」

世知辛い世の中というのは江戸の昔から言われてきたことだけど、いまほど世知辛い世の中はなかったのではないか。そんな現代日本への強烈なカウンターパンチだった。
ドラマの終盤、晩白柚の砂糖漬けを翌朝食べることになった優太は言う。
「早く明日になんないかな」
明日を楽しみにできる心を取り戻したのだから、優太の未来はきっと明るい。




















