『SPY×FAMILY』は“令和のサザエさん”に? 現実との危ういバランスで成り立つ笑い

 アニメ『SPY×FAMILY』のSeason2が、10月7日からテレビ東京系でスタートする。本作は、遠藤達哉が『ジャンプ+』で配信している同名漫画(集英社)をアニメ化したものだ。

『SPY×FAMILY』Season 2 オープニング主題歌Ado「クラクラ」アニメ映像(ノンクレジット) /2023.10.07 23:00~ON AIR

 舞台は、冷戦時代のヨーロッパを思わせる東国(オスタニア)と西国(ウェスタリス)。西国のスパイ〈黄昏〉は、両国の平和を脅かす怪しい動きを見せている東国政治要人のドノバン・デズモンドの動向を探るため、彼の息子・ダミアンの通う名門イーデン校に潜り込む作戦を命じられる。

 精神科医ロイド・フォージャーという偽りの肩書を手に入れた〈黄昏〉は孤児院で暮らす少女・アーニャを養女として引き取り、公務員のヨル・ブライアと結婚。ロイドはアーニャをイーデン校に入学させ、ダミアンと仲良くさせようと目論むのだが、実はアーニャは人の心が読める超能力者で、ヨルは国のために暗殺を請け負う殺し屋〈いばら姫〉だった。

 スパイのロイド、殺し屋のヨル、超能力者のアーニャ、三人はお互いの正体を隠して、偽りの家族を演じることになるのだが、いっしょに暮らし、同じ目的のために行動することによって、次第に本当の家族のようになっていく。

 『007』などのスパイ映画を思わせる国家の命運をかけたロイドの諜報活動、名門校で良い成績を取るために奮闘するアーニャの学園生活。そして3人が家族として過ごす姿を描いた『奥様は魔女』などのシットコムを思わせる母親のヨルが家族のために料理作りの勉強をするホームドラマなど、本作はさまざまなジャンルの物語が一つに収まった複合的な物語で、誰の視点で観るかによって、物語が変わっていく。この、どんな物語でも受け入れてしまう懐の大きさこそが『SPY×FAMLIY』の魅力であり、本作が描こうとする家族の本質ではないかと思う。

 表向きは平和に見えるが水面化ではテロリストやスパイが暗躍する西国の描写は、そのまま偽りの家族を演じるロイド家の姿の映し絵をになっており、どの登場人物も裏の顔を持っている。

 素性を隠して相手に接触し、会話の節々から情報を探ろうとするロイドたちの様子は、優れた心理ドラマだが、心の声を聞くことができるアーニャには全員の本心がダダ漏れだ。

 その結果、シリアスな心理劇は、間抜けなコメディへと様変わりするのだが、大人たちの嘘をすべて知っている子どものアーニャというシチュエーションこそが、本作が生み出した最大の発明だ。

 そして、このシチュエーションを用いることで、血が繋がらない他人で考えていることもバラバラだが、お互いに心配し、尊重し合っているロイドたちの姿を描くことによって『SPY×FAMILY』は新しい家族像を打ち出すことに成功した。その意味でも本作は、令和を代表する新しいファミリーアニメだと言えるだろう。

 元々、日本のテレビアニメには、家族で楽しむファミリーアニメの伝統がある。『サザエさん』、『ちびまる子ちゃん』、『クレヨンしんちゃん』といったファミリーアニメは今も放送が続いている国民的作品で、放送がはじまった時代の家族のロールモデルとして語られる機会が多い。

 しかし、平成初頭にはじまった『クレヨンしんちゃん』以降、国民的ヒットと言えるファミリーアニメは長らく不在だった。それは不況で少子化が進む停滞した日本にふさわしい、新しい家族のイメージをフィクションが提示することが難しくなったことの裏返しだったが、『SPY×FAMILY』は、久々に現れたファミリーアニメの大ヒット作で、シリーズ化が進めば“令和のサザエさん”と言えるコンテンツに成長することは間違えないだろう。

 その確信は年々深まっているが、それは時代の変化とも無関係ではない。

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