近年のトレンドは“カニバリズム”? 『イエロージャケッツ』はキャスティングも見どころに
奇妙なことに近年、カニバリズムを扱った作品が同時多発的に発生している。国籍もジャンルもテーマも様々。フィクションとの相性は抜群で、私たちは引きつけられずにはいられない。先頃、シーズン2の制作が発表されたドラマシリーズ『ガンニバル』は、山深い限界集落の交番に赴任した主人公が、村で秘密裏に行われてきた食人儀式の謎を追う。古今東西作られてきた“都会の人間が田舎で恐ろしい目に遭う”ホラーの最新系だが、ここでは柳楽優弥演じる暴力刑事・阿川が村人たちと同様、時にそれ以上の狂気で周囲を圧倒するさまに得も言われぬ快感がある。村に隠された秘密が象徴するのは閉鎖的、暴力的な社会因習、すなわち“ムラ社会”そのものだ。
Prime Videoで配信されている1話30分のドラマシリーズ『ホラー・オブ・ドロレス・ローチ』は“現代版『スウィーニー・トッド』”。ドラッグ売人の恋人をかばったばかりに投獄されたドロレス(物語に現実味を与えるジャスティナ・マシャド)が、16年の刑期を終えて出所。地元ワシントンハイツに戻ってみれば恋人の姿はなく、街はジェントリフィケーションが進んでろくろく住む場所もない。昔なじみのエンパナーダ専門店の地下に下宿し、ムショで学んだマッサージで生計を立てようとするのだが……。製作は『死霊館』シリーズや『M3GAN/ミーガン』でおなじみのブラムハウス。ドラマ冒頭には事件の顛末を描いた舞台が大ヒット中で、ここでもカニバリズムが人間の好奇心を誘っている。
ティモシー・シャラメが出演する『ボーンズ アンド オール』では、カニバリズムが孤独と愛の象徴として描かれている。1980年代のアメリカ、テイラー・ラッセル演じるマレンはクラスメートの指先をおもむろに口に含むと、噛み切ってしまう。彼女は生まれながらにして食人の性(さが)を持っているのだ。マレンの本能を目覚めさせまいと奔走してきた父は姿を消し、彼女は生き別れの母を探して旅に出る。その途上で出会うのが同じ食人の性を持つ不気味な老人サリー(マーク・ライランス)と、シャラメ演じるリー。「この世界に自分の居場所なんてない」と1度でも感じたことのある人なら、ルカ・グァダニーノが描くカニバリズムの旅路は自分だけの一生の秘密となるだろう。『ボーンズ アンド オール』は『君の名前で僕を呼んで』『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』と並ぶ青春映画。若いうちに食べてしまいたいくらい好きな人と出会って、できることなら両想いになってみる。さもなければ快楽を貪るだけの憐れな老人になってしまうかもしれない。
『イエロージャケッツ』シーズン2は9月29日よりU-NEXTで配信が開始される。ここで挙げた諸作と線で繋いでみるのも面白いかもしれない。カニバリズムは創作者にオブセッションを与え、観客の隠された感情を刺激してやまないモチーフなのだ。
■配信情報
『イエロージャケッツ』
シーズン1:U-NEXTにて配信中
シーズン2:U-NEXTにて、9月29日(金)00:00より独占配信
出演:メラニー・リンスキー、ジュリエット・ルイス、クリスティーナ・リッチ、タウニー・サイプレス、ローレン・アンブローズ、シモーヌ・ケッセル、ウォーレン・コール、イライジャ・ウッド、ソフィー・ネリッセ、フィー・サッチャー、サミー・ハンラティ、ジャスミン・サヴォイ・ブラウン、リヴ・ヒューソン、コートニー・イートン、エラ・パーネル、ケビン・アルベス、スティーヴン・クルーガー
製作総指揮:アメニ・ローザ、サラ・L・トンプソン、カリン・クサマ、ドリュー・コミンズ、アシュリー・ライル、バート・ニッカーソン、ジョナサン・リスコ
脚本:アシュリー・ライル、バート・ニッカーソン
監督:デイジー・フォン・シャーラー・メイヤー
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