近年のトレンドは“カニバリズム”? 『イエロージャケッツ』はキャスティングも見どころに

『イエロージャケッツ』に魅了される理由

 1996年、高校の女子サッカーチーム“イエロージャケッツ”を乗せた飛行機が全国大会へ向かう途中、墜落。彼女らは人里離れた北米の森林地帯で1年7カ月にも及ぶ遭難生活の末、救出される。酷寒の環境下で少女たちはいかにして生き延びたのか? 事件は数多くの憶測を呼び、それから25年の時が過ぎる。

『イエロージャケッツ』Yellowjackets © Showtime Networks Inc. All Rights Reserved.

 U-NEXTで配信中のTVシリーズ『イエロージャケッツ』は2つの作品を連想させる。1つは1993年のフランク・マーシャル監督作『生きてこそ』。1972年に学生ラグビーチームと父兄を乗せた飛行機がアンデス山脈に墜落し、72日間のサバイバルの末に生還した“ウルグアイ空軍機571便遭難事故”の映画化だ(生存者役の1人として若き日のイーサン・ホークも出演している)。野生動物のいない極寒の高山地帯で飢餓状態に追い詰められた生存者たちは、死者の肉を食べて命をつなぎ、徒歩でアンデス山脈を超えて救助を求めた。映画は雪のコロンビア山脈でロケされ、今でも十二分に見応えがある力作。事件はドキュメンタリーを含め何度も映画化されており、今年はNetflixからJ・A・バヨナが監督した『雪山の絆』がリリース予定。『インポッシブル』でスマトラ沖地震津波を迫真のリアリズムで描いたバヨナだけに、事件の過酷さが徹底再現された再映画化になるだろう。

 もう1つ、私たちの頭をよぎるのが、ウィリアム・ゴールディングが1954年に書いた小説『蝿の王』。無人島に漂着した年端も行かない少年たちの冒険物語……ではなく、彼らの団結がファシズム化し、殺し合いに発展していく“裏版『十五少年漂流記』”。1990年にイギリスで映画化されているが、原作の持つ強烈なイメージにはかなわない。『イエロージャケッツ』はこれら2作品の遺伝子を持ち、さらには1996年と2021年の時制を何度も往復する。果たして『蝿の王』から生還した子供たちは25年後、いったいどうなっているのか? 人生を破壊された彼女たちにかつての輝きは微塵も残っていない。事故のトラウマから逃れるように生きるある日、奇妙なマークの描かれた差出人不明のポストカードが届く。あの森で行われていたことを知る誰かが送ってきたのだ。

『イエロージャケッツ』Yellowjackets © Showtime Networks Inc. All Rights Reserved.

 『イエロージャケッツ』の見どころの1つはキャスティング。2021年パートにはジュリエット・ルイス、クリスティーナ・リッチ、メラニー・リンスキーら1990年代前半に頭角を現した女優たちが配されている。ジュリエット・ルイスは1991年のマーティン・スコセッシ監督作『ケープ・フィアー』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、以後ウディ・アレン監督『夫たち、妻たち』や、『ギルバート・グレイプ』『ナチュラル・ボーン・キラーズ』など話題作に立て続けに出演した。クリスティーナ・リッチは1991年の『アダムス・ファミリー』ウェンズデー役で人気を集め、アン・リー監督の『アイス・ストーム』からカルト作『バッファロー’66』まで幅広い作品で活躍。多くの子役出身俳優同様、2人は1990年代後半〜2000年代前半以後キャリアが伸び悩み、近年は見かける機会も少なかった。『イエロージャケッツ』でルイスが見せる望んだ人生を歩むことのできなかった敗残、リッチの単なる“個性派”の枠に収まらない巧みさは歳を重ねた俳優だけが持つ深味だ。

 2人に比べ助演として着実にキャリアを積み重ねてきたメラニー・リンスキーは、46歳を迎えた今がキャリアのハイライトかもしれない。1993年のピーター・ジャクソン監督作『乙女の祈り』で、母親殺しを企てる少女を演じてデビュー。共演のケイト・ウィンスレットが大きく注目を集め、瞬く間にスターダムにのし上がった一方、リンスキーはその後も助演俳優として浮き沈みなく多くの作品に出演し続け、今や名バイプレーヤーに。2023年は『THE LAST OF US』で演じた武装集団の残忍なリーダー役も強烈だった。『イエロージャケッツ』では反抗期の娘と浮気症の夫に悩む平凡な主婦の顔を持ちながら、遭難事故の過去をひた隠す主人公ショーナを緩急自在に怪演している。

『イエロージャケッツ』Yellowjackets © Showtime Networks Inc. All Rights Reserved.

 1996年パートには注目の若手女優が集結。中でもジュリエット・ルイス演じるナタリーのティーン時代に扮したソフィー・サッチャーが目を引く。外見こそ似ていないが、ルイスそっくりのハスキーボイスで役柄を共有し、90年代前半にルイスが体現していたパンキッシュな魅力がある。そのほか、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でブライズの1人を演じたコートニー・イートンが重要人物ロッティに扮し、シーズン2では大きく出番が増えそうだ。

 『イエロージャケッツ』は生還した彼女らの罪の意識と代償を巡るサスペンスに先の読めない面白さがあるものの、視聴者を惹きつけてやまないのは、破滅的な結末に向かう1996年のパートだ。『生きてこそ』の青年たちは信仰心と友情を糧に生き延びたが、『イエロージャケッツ』の少女たちは思春期特有の集団ヒステリーによってカルト化し、第1話冒頭で示される悪夢的な事態へと転落していく。ショーランナー、アシュリー・ライルとバート・ニッカーソンのコンビは視聴者に結末を予感させながら、なおもそれを見届けたいという後ろ暗さにも似た欲求を喚起し、捕えて離さない。

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