『呪術廻戦』メカ丸/与幸吉の裏切りのやるせなさ 『ミミズ人間4』を使った秀逸な演出も

『呪術廻戦』メカ丸と『ミミズ人間4』の暗喩

 ついに始まった、「渋谷事変」へのカウントダウン。9月7日放送の『呪術廻戦』第31話(第2期7話)「宵祭り」というタイトルは、まさに呪霊サイドにとって祭日の“前夜祭”を意味する。その祭りの主人公は、歌姫から明かされた裏切り者・メカ丸こと与幸吉だ。

 メカ丸はその姿かたちのインパクトが大きいキャラクターだった。パンダの呪術師がいれば、ロボットの呪術師もいるのか。そんなふうに思ってしまいそうだが、第1期の「京都姉妹校交流会」編でパンダと戦ったとき、パンダに同じ“傀儡”だと言われると、彼はものすごく怒っていた。パンダがパンダではないように、メカ丸もメカ丸ではない。その奥にいるのは与幸吉という一人の青年であり、彼はごく普通の青年が望むような幸せを望んだ。友達と一緒に過ごすこと、である。

 本編では触れられていないが、彼は幼い頃から高専に保護されていた。「懐玉・玉折」に登場した伏黒甚爾や、東京校の2年生・禪院真希のように“天与呪縛”の持ち主である彼は、先天的な身体の不自由と引き換えに高い呪力を得ている。生まれた時から右腕と下半身の大部分の感覚がなく、肌は月明かりに照らされるだけでも焼かれてしまうほど脆い。そのため包帯を全身に巻いている。常に“全身の毛穴から針を刺されるような痛み”があり、生命維持装置から離れることができない。これらの“基本的な”情報だけでも、彼が毎日、毎秒存在しているだけで心身ともに感じる痛みが計り知れないことが理解できる。

 しかし、彼の状態が悪ければ悪いほどそれに値する高い呪力を持っているのだ。彼の術式・傀儡操術の範囲は日本全土に及ぶほど。彼が媒介としているメカ丸も、パンダ戦で描かれたように数多くの技を持っていた。そしてついに始まった真人との戦いで登場したのは「究極メカ丸絶対形態」と呼ばれる巨大ロボ。作者の芥見下々がロボットアニメの中で一番観返していると公言する『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズから受けた影響がありありと映されている。精密に描かれるコックピットの様子にもこだわりが感じられるが、中でも注目すべきは彼の生きた年数をチャージして攻撃力に変えるシステム。まさに“命を燃やして”、与幸吉は戦っているのだ。

 彼は第1期で存在が仄めかされていた裏切り者だった。しかし、高専を裏切ったのは本意ではなく呪霊側に情報提供という形で協力することで真人の「無為転変」を利用し、自分の肉体を治してもらおうとしたからだ。それもこれも、本当の自分の姿で仲間に会いたかったから。想いをよせる女の子、三輪に会いたかったから。気になる彼女に、与幸吉は自分自身が“醜い”と思う包帯姿で会いたくなかったのだ。もし彼の立場になってみたらと考えると、その十分に理解できる動機があるからこそ、この裏切りがやるせない。

 第30話「そういうこと」では、与幸吉と真人らのやり取りの前に虎杖悠仁が中学時代の同級生と再会するエピソードが描かれた。そこで虎杖は、今は亡き吉野順平と「駄作ではあるが、2は良いよね」と一緒に盛り上がっていた『ミミズ人間』の最新作を観ようとする。釘崎野薔薇に語った映画の内容は、漫画にはないアニメオリジナル描写で、無駄に凝ったストーリーやキャラクター設定、無駄に高い作画を駆使したまるで大人の悪ふざけのように思えて笑いを誘った。しかし、実は唐突的に思えた『ミミズ人間4』はそのまま後に描かれる与幸吉の物語と呼応しているのだ。

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