『どうする家康』岡田准一の信長は大河史上最強で最弱だった 武道家が“岡田信長”を解説

『どうする家康』武道家が語る岡田准一の信長

 成人後の信長にとっての“癒し枠”は、言わずと知れた濃姫(帰蝶)である。信長を描いた近年の代表的な作品である、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』(2020年)や映画『レジェンド&バタフライ』(2023年)においても、濃姫が重要な位置を占めている。川口春奈が、綾瀬はるかが、愛する妻としてだけではなく、友であり、参謀であり、母親でもある存在を担っていた(信長は、母・土田御前から愛されずに育ったとされている)。

 一方、今作における濃姫は、どのように描かれているのか。なんと、描かれすらしなかった。登場しないのである。名前すら出てこなかった。いない者として描かれている。

 脚本の古沢良太、ひどすぎないか? 今作の信長の圧倒的孤独。自己に置き換えてみただけで、押し潰されて死ぬかと思った。

『どうする家康』岡田准一が信長の涙の裏側を明かす 「演じてみたら勝手に涙が流れてきた」

毎週日曜日に放送されているNHK大河ドラマ『どうする家康』出演の岡田准一よりコメントが寄せられた。  本作は、ひとりの弱き少年…

 信長は、家康の前でだけ、その弱さを見せる。

「人を殺めるということは、その痛み、苦しみ、恨みを、すべてこの身に受け止めるということじゃ……。俺は、何人殺した……?」

 信長は、自らの来し方を恐れ、後悔し、すでに壊れかけている。おそらく、他の家臣にこのような姿を見せることは、有り得ない。

 信長は、もう終わりにしたかったのだろう。その最期は、生涯で唯一心を許せる存在であった徳川家康に、終わらせてほしかったのだろう。

岡田准一

 だからこそ、家康に謀反を感じ取った時の「待っててやるさ」のトーンが、あまりにも優しくて、やるせない。

 信長は、本当に待っていたのだ。家康を。家康が殺しに来るのを。夢に見るほどに、家康に殺されたかったのだ。

 だが家康は、直前でヘタれる。白兎は、いまだ白兎のままだった。「弱き兎が狼を喰らう」んじゃなかったのか……。

 信長を討ったのは、よりによって小物(に描かれている)の明智光秀である。その際の信長の絶望たるや。心底ガッカリした「なんだお前か……」のセリフは、おそらく視聴者全員の気持ちでもある。

 もっとも強く、同時にもっとも弱く、そして、もっとも悲しい織田信長だった。岡田准一だからこそ、これだけの多面性を帯びた複雑過ぎる信長を、演じることができたのだ。

 これからの家康には、ある意味信長以上に恐ろしい、豊臣秀吉との戦いが待っている。信長の屍を踏み越えて、白兎は本当に天下を取れるのか。

■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK

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