『どうする家康』岡田准一×松本潤による異色の「本能寺の変」 “たった一人の友”への思い
『どうする家康』(NHK総合)第28回「本能寺の変」。信長(岡田准一)が本能寺へ入ったという知らせを受け、家康(松本潤)は堺へ向かった。家康は信長を討ったあとの体制も盤石に整える。そんな中、家康は思いがけず信長の妹・お市(北川景子)と再会する。
「兄は決してあなた様には手を出しませぬ」
「あなた様は兄のたった一人の友ですもの」
考えもしなかったことをお市から言われ、家康は戸惑った。お市は、いずれ誰かに討たれるなら、信長は家康に討たれたいと思っているのではないかと話す。自分が失ったものを持ち続ける家康が、信長は羨ましいのではないかとも口にした。その夜、家康は木彫りの兎を見つめて考え続けた。第27回で信長は、「弱き兎が狼を喰らうんじゃ」と歯向かう家康に優しい声色で「待っててやるさ」と返していた。信長が心を許すたった一人の友である、という事実に家康は心を揺さぶられる。
さらに家康を動揺させたのは、茶屋四郎次郎(中村勘九郎)から伝えられた一報だった。
「夜明け前、軍勢押し入り、上様……信長様はお討ち死にあそばされました!」
信長の心の内を知った家康だが、安土城へ招かれた日を最後に、信長とは今生の別れとなってしまった。四郎次郎の言葉に顔をこわばらせ、言葉を失う家康の表情は心苦しい。
第28回では、家康と信長、そしてそれぞれの過去が入り乱れるように映し出される。物語終盤、家康と信長が互いの名前を呼び合う時、2人は同じ時間の中にいない。家康が信長の名を呼ぶ時、信長はもうこの世にいないのだ。けれど、家康と信長のまなざしの先には確かにお互いの姿が映っていたように思う。
過去の描写から、お市の言葉が事実であることが明かされる。父・織田信秀(藤岡弘、)から「心を許すのは一人だけにしておけ」「こいつになら殺されても悔いはないと思う友を一人だけ」と言われた若き信長がふと顔をあげる。本能寺で夜を過ごす信長もまた、誰かを思うように顔をあげていた。友が来るのを待ち侘びていたのだろうか。うつむくその目がとても寂しげに感じられた。
奇襲を受けた信長は深い傷を負う。自身を刺したのが家康ではないと気づいた時、荒々しい表情が一転、深い悲しみに満ちた。駆けつけた森乱(大西利空)が息を呑む中、信長はうわ言のように家康の名を呼ぶ。手負いの体であっても信長は強く、明智の軍勢を圧倒する。それでも信長の関心は家康ただ一人だ。「家康……家康……」「どこにいる? 家康」と呟きながら、城内をあてもなく歩き回る。こいつになら殺されても悔いはないと思う友を一心に求める姿がもの悲しい。だからこそ、明智光秀(酒向芳)が現れた時の失望は強かった。