『どうする家康』岡田准一の信長は大河史上最強で最弱だった 武道家が“岡田信長”を解説

『どうする家康』武道家が語る岡田准一の信長

 今年度のNHK大河ドラマ『どうする家康』において、織田信長役が岡田准一と聞いた時、一抹の不安を覚えた。岡田准一が演じるからには、おそらく過去最強の織田信長になるであろう。果たして、本能寺の変に説得力を持たせることができるのか。その後、明智光秀役は酒向芳と聞くに及び、「酒向芳が岡田准一を殺せるわけないじゃないか」と、より一層不安感が増幅した。

 そして迎えた第1回は、いきなり桶狭間の戦いから始まった。この戦いこそ、「尾張の大うつけ」だった信長が、ブレイクするきっかけとなった出来事である。物語は、野村萬斎演じる今川義元の、カリスマ性、かっこ良さ、そして全能感を存分に描き、「この義元を倒すのは並大抵ではない。少なくとも3話ぐらいはこの戦いに費やすはず」と、思わせるものだった。演者が野村萬斎という大物であるという点もあり、すぐに退場するはずはないと。

 だが放送終了まであと3分の時点で、唐突に決着がつく。その攻防すら見せることなく、信長は義元を討ち取ってしまっていた。義元の首を引っ掛けた槍を掲げて馬に乗る姿には傷ひとつなく、その戦いがいかに「楽勝」だったかを示している。そして、その槍をぶん投げる。馬に乗ったまま。この槍投げがいかに凄まじいかは、陸上競技を想像してもらえればわかるだろう。一般的に槍投げの選手は、十分に助走をつけた上で「うあああああああああいっっ……!!!」とか絶叫しながら、全身の力を使って槍を投げる。鍛え抜かれたアスリートでも、そこまでしないと槍は投げられないのだ。

 だが岡田信長は、馬に乗ったまま、上半身の力だけで、声も出さず、無表情で、遠投をする。6kg相当の人間の頭部ごと。

 もちろん、岡田准一が実際にそれをやったとは思わない。だが「岡田准一なら、本当にそれぐらいやるかもしれない」という説得力がある。そして極めつけの、「待ってろよ、俺の白兎……」である。

岡田准一「待ってろよ、俺の白兎」のインパクト 『どうする家康』で松本潤に与える影響

大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)の放送が始まった。物語の主人公・徳川家康(松平元康)を演じる松本潤と共に出演するのが、同…

 ラスト3分で、過去最強の織田信長であることを強烈に印象づけてしまった。やっぱりこの信長が、本能寺で死ぬわけがない……。

 その後も、岡田信長の“強さ”を見せつけるシーンが頻出する。

 第3回における巻藁斬りにおける腰の座りと体幹。第15回における秀吉(ムロツヨシ)への前蹴りの鋭さと“刺さり具合”。この前蹴りがあまりに本格的過ぎて、筆者はライターとしてではなく、“武道家として”の勉強のため、このシーンを何度もリプレイした。もし秀吉が具足を着けていなければ、甚大なダメージを負っていたと思われる。

 そしてもっとも岡田信長の強さが際立ったシーンこそ、第4回での元康/家康(松本潤)との相撲である。

 家康の巴投げを受けるも、抑え込みにきた家康をスイープで返し、マウントから上三角締めの体勢に入った状態で、「勝負あり」。

 このシーン、ただのマウントで終わらずに上三角に移行し、両手を完全に封じ込めた点に、この信長の実戦力を強く感じる。「後はとどめを刺すだけ」という完全に制圧した状態であり、それを察知して勝負を止めた秀吉の非凡さをも印象付けるシーンだ。おそらく何もわかっていない佐久間信盛(立川談春)とかなら、「えっ!? なんでこれで終わりなの!?」とか周囲に聞き回って、呆れられているところだろう。

 ちなみに今作の家康は、他のシーンでもこの巴投げをよく使う。得意技なのだろう。だが家康の巴投げは、遠くに投げ捨てて終わりである。頭から落とすでもない。大ダメージは望めない。投げ終わった後は、自分も大の字で隙だらけだ。この点に、家康の弱さがある。

 実戦における巴投げの有効な使い方を、他ならぬ岡田准一が示しているシーンがある。今作ではなく、『散り椿』(2018年)という映画においてだが。一介の浪人である瓜生新兵衛(岡田准一)が、刺客を巴投げで投げる。その際、家康のように投げ捨てず、その勢いで自らも後転してそのままマウントを取り、とどめを刺す。

 巴投げからの展開における理想形であり、おそらく今作の信長なら、同様の展開にするはずだ。

 この信長が、本当に本能寺で死ぬのだろうか。

 果たして、この信長は、本能寺で死ぬべくして死んだ。

 岡田准一が演じた織田信長は、もっとも強い織田信長であると同時に、“もっとも弱い織田信長”だったからだ。

 今作の信長には、幼い頃から“逃げ場”がなかった。

 父・織田信秀(藤岡弘、)の英才教育に対しても、従来の信長には、お目付け役・平手政秀(マキノノゾミ)という“癒し”があった。

 吉法師(信長の幼名)のうつけに悩まされながらも、唯一の理解者であった政秀。その政秀の死をきっかけとして、大うつけが覚醒する……。信長の少年期を描く際の、定番エピソードでもある。

 だが今回の政秀は、ムチを持った鬼教官であった。吉法師を容赦なく鍛える。“御曹司相手”という忖度は一切なく、もちろん“癒し要素”はゼロである。

 演じるのは、関西演劇界の重鎮であるマキノノゾミ。知る人ぞ知る存在だが、筆者も昔関西で演劇をしていたので、その芝居に対する厳しさは、よく耳にした。たまたま、そのマキノ氏主宰の劇団メンバーと同居していたのだが、「よく殴られる……」という話を聞かされた。マキノ氏の芝居に裏方で入ったこともあるのだが、ビビった筆者は話しかけることも出来なかった。“教官がマキノノゾミ”ということの恐ろしさは、伝わる人間には深く伝わる。だが知らない方にも、その恐ろしさは伝わったのではないか……。

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