興収17億円突破! 『劇場版アイドリッシュセブン』が3次元アイドルファンに刺さった理由

『ムビナナ』が次元を越えて愛された理由

 人気スマートフォン用アプリゲーム『アイドリッシュセブン』(以下、『アイナナ』)は、2022年8月20日に7周年を迎え、その後「7周年イヤー」として数多くのイベントや企業コラボを展開してきた。そんな7周年の集大成として、5月20日から映画『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』(以下、『劇場版アイナナ』)が“開催”されている。本作は、公開から8週目の7月8日に興行収入17(アイナナ)億円を突破し、翌9日には観客動員数100万人に達した。数字の語呂合わせにこだわる同作の運営及びユーザーは、この快挙にお祝いムードだ。

 2015年にリリースされた『アイナナ』は、プレイヤーが芸能事務所のマネージャーとなって、新人アイドルIDOLiSH7を育成するリズム&ノベルゲーム。2018年から2023年にかけてアニメが3期まで放送され、小説やコミック、声優によるライブや、オーケストラコンサート、リアル脱出ゲームとのコラボなど、メディアミックスを展開してきた人気コンテンツだ。7人組のIDOLiSH7、3人組のTRIGGER、2人組のRe:vale、そして4人組のŹOOĻ、合計16人のアイドルたちが、さまざまな困難を乗り越えながら成長していくストーリーは、「しんどい」ことでも知られており、そのリアリティと、そこで浮き彫りになっていくアイドルたちの人間的魅力に心を奪われるユーザーが多い。

 『劇場版アイナナ』は、本編ストーリー第6部の延長線上の出来事となっており、当初は既存ユーザー向けの間口の狭い作品になるのではと予想されていた。しかし蓋を開けてみれば、『アイナナ』についてなにも知らないまま本作を鑑賞し、強く心を揺さぶられた観客も少なくない。特徴的なのは、新たに『アイナナ』の魅力を発見した観客には、ジャニーズやハロー!プロジェクト、AKBグループや坂道シリーズなど、3次元のアイドルファンが多いことだ。

 これまでも、文字通り“次元を超える”アイドルとして、企業コラボなどの際にはゲームタイトルなどを出さず、登場人物たちを現実に存在するアイドルとして扱ってきた『アイナナ』。そんな彼らのどこに観客は魅力を感じているのか。『劇場版アイナナ』の特徴とともに解説していきたい。

既存ユーザー向けの豊富な入場特典やイベント

 映画公開の情報が解禁され、まず反応したのは、当然ながら既存ユーザーだ。公開前に販売されたムビチケの購入特典は、クリアファイルから各アイドルのフォト風クリアカード(全16種ランダム)など、コレクター心をくすぐるものが多く、即日完売が続いた。ムビチケは上映予定劇場で販売された第1弾〜第4弾に加え、アニメイト限定、Loppi限定など、豊富なバリエーションで売上を伸ばしていった。

 さらにユーザーを驚かせたのは、公開1週目の入場特典として、このライブに至るまでの経緯が描かれた漫画を含む、全80ページの“小冊子”が配布されたことだ。本来であれば、グッズとして販売できそうなボリュームの入場特典。内容は後日アプリにて公開されたが、キャラクター原案の種村有菜によるコミック版とのことで、コアなユーザーはこれを入手しようと公開初日から劇場に殺到した。さらに、公開前から第7週までの入場特典が決定していることが発表されていたことも、コアユーザーが劇場に何度も足を運んだ理由だろう。

 また、公開初日に本編のBlu-rayを発売という正気の沙汰とは思えない大盤振る舞いも、大きな驚きだった。普通の映画なら、1度劇場で観てBlu-rayを購入してしまえば、あとは家で観れば満足のはず。しかし、そうではない魅力があるという自信があるからこそ、この前代未聞の決定が下されたのだろう。なぜそこまで自信があったのかといえば、上映形式の幅広さが理由の1つだ。それについて詳しくは後述しよう。

 ムビチケ特典、入場特典のほかにコアユーザーを劇場に呼び込む方法として取られたのは、舞台挨拶やイベントの多さだ。本作は「劇場ライブ」として全国の劇場で“開催”されているため、<DAY 1>と<DAY 2>の2公演があり、一部セットリストが異なる。初日舞台挨拶は、<DAY 1>と<DAY 2>別々に行われ、各グループの声優陣による舞台挨拶、さらに音響や演出に関わったスタッフの舞台挨拶と、とにかく数多くの舞台挨拶やイベント上映が行われている。7月28日には、カスタネットやタンバリン、吹き戻しなど、鳴り物OKの応援上映も開催予定だ。これらコアユーザーを狙い撃ちする施策が、ヒットの土台となっていることは間違いない。

応援上映、ドルビーシネマ、4DX……さまざまな上映形式

 「劇場ライブ」として製作された『劇場版アイナナ』は、当然ながらある程度、応援上映を前提とした作りになっている。ステージ上のアイドルと観客のコール&レスポンス、煽りなど、応援上映でこそ味わえる楽しさが盛り込まれているのだ。「劇場ライブ」やその応援上映自体は、2022年の『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ』をはじめ、前例はある。『劇場版アイナナ』も、もちろんその系統の作品だ。応援上映のほかにも、映像や音響の魅力を最大限に引き出すドルビーシネマ版は、実際のライブに来たかのような臨場感を味わうことができ、特に好評を博している。また客席の振動や風など、アトラクション感が強い演出の4DXやMX4Dでの上映も行われている。

 こうした劇場でしか味わえない体験を提供することで、作品本来の魅力を存分に発揮できると確信していたからこそ、先に触れた「公開初日にBlu-ray発売」に踏み切ったのだろう。劇場で体験したくなる、Blu-rayを観て細かい部分をチェックしたくなる、そしてもう1度劇場に足を運びたくなる。それが『劇場版アイナナ』の力だ。

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