『無職転生』はなぜ大人気作品になったのか? 異世界転生系アニメにおける“重要な要素”
引きこもりのニートやブラック企業の社員が異世界に転生して楽々と大成功! そんなイメージがある異世界転生ストーリーだが、ヒットしている作品には意外にも苦難を乗り越えて成功を掴む主人公が多い。スライムや蜘蛛から這い上がったり、激戦地で大軍を相手にさせられたり。待望のTVアニメ第2期『無職転生II ~異世界行ったら本気だす~』も同じだ。逆境から抜け出そうとあがく主人公の姿が、現世では失っていた自分の願いや他人への思いを浮かび上がらせ、観る人に今を本気で頑張ろうという気を起こさせるのだ。
34歳の無職で引きこもりだった男が親を亡くし、兄弟たちに家を追い出され、路頭に迷っていたところで交通事故に遭って死んでしまう。目覚めるとそこは異世界で、男は現世の意識を持ったままグレイラット家の赤ん坊に生まれ変わっていた。赤ん坊はルーデウスと名づけられ、父親で下級騎士のパウロから剣術を教わり、実年齢はともかく見かけは少女の魔術師ロキシー・ミグルディアから魔術を教わって、前世とはまるで違った充実した日々を過ごしていく。
「やっぱり来世が一番!」と謳って、夢に逃避させる物語なのかというと実は違う。学生時代に虐められていたり、大人になっても周囲から見下されていたりしてきた記憶が転生したルーデウスを縛って、完全に開放された気持ちにはさせなかった。ロキシーのおかげでどうにか乗り越え、優れた魔術の才能を見せるようになってからも、家庭教師として教えることになった上級貴族の令嬢エリスの「狂犬」ぶりに手を焼く羽目になる。
凶暴ながらも美少女で自分に好意を持ってくれているエリスと出会えたのだから、前世とは大違いじゃないかと言われそうだが、そんなルーデウスとエリスをとてつもない事態が襲う。フィットア領転移事件だ。輝く光が立ち上ったと思ったら、周囲を破壊し大勢の住人たちを見知らぬ場所へと転移させてしまった怪現象に巻き込まれ、ふたりは故郷から遠く離れた魔大陸へと飛ばされてしまう。
そこから旅をすること実に3年。いくら“子供には旅をさせろ”とはいえども、10歳の子供には過酷すぎる旅は、物語の中の出来事であっても単なるスリルではすまない。子供ばかりを襲う怪物「デッドエンド」と噂されているスペルド族のルイジェルドとの出会いに始まり、エリスの家にいてルーデウスに剣術を教えた獣族の女剣士ギレーヌの故郷に行き、同じように旅に出ていた父親のパウロと再会する。そういった出来事からは、他人に理解されない辛さも感じられる。
そして、命すら奪われかけた龍神オルステッドとの邂逅。ルーデウスに夢のような場所で啓示を与える「ヒトガミ」を強く憎んでいて、ヒトガミを知っていると口を滑らせたルーデウスを拳で貫き、彼に死を強く意識させる。アニメ第1期で「ターニングポイント2」というサブタイトルが付けられたとおり、以後の展開に大きく関わってくることがあるのでは、と想像させるエピソードだった。