『鬼滅の刃』時透無一郎の変化が涙を誘う 河西健吾の巧みな演じ分けが光った回想パート
フジテレビ系にて放送中のテレビアニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編。現在放送されている全8話時点で一番成長が観られたのは、霞柱・時透無一郎である。最初は無愛想で冷徹だった無一郎だが、炭治郎や里の人々と出会い、上弦の伍・玉壺と対峙する中で段々と心情が変化していく。
これまで炭治郎が出会ってきた柱は、炎柱・煉獄杏寿郎や音柱・宇髄天元など、落ち着きと包容力があり、正義感溢れる兄貴のような存在だった。炭治郎は心から2人を尊敬していたし、師のように慕っていた。しかし、無一郎は同じ柱でも煉獄や宇髄とは対照的な性格である。感情の起伏が見られず、何を考えているかわからない。そして、「刀鍛冶は戦えない。人の命を救えない。武器を作るしか能がないから」といったように物事を合理的に考える人物だ。炭治郎は彼を「残酷」な人だと表現した。
その大きな理由は、彼が記憶を無くしたことに関係している。無一郎には、幼少期の記憶がない。人の名前や出来事を記憶するのも苦手なようだ。そのため、「今この瞬間に何をするのが適切か?」を状況を見ながら判断している。「人はどう感じているのか?」には関心がないのである。
しかし、誰かのために一生懸命に行動する炭治郎と出会い、段々と記憶の断片を取り戻していく。そして玉壺に追い詰められた時、やっと自分の家族の存在を思い出したのだ。
10歳の時に大好きな母と父を亡くした無一郎は、その後双子の兄・有一郎と2人で暮らすようになる。有一郎は、無一郎に対してキツく当たり、「人のためにすることは巡り巡って自分のためになる」と教えた優しい父親とは対照的な人物であった。「人のために何かしようとして死んだ人間の言うことなんて当てにならない」と、両親を否定。「無一郎の無は無能の無」「無一郎の無は無意味の無」と無一郎を傷つける。その様子は、記憶を無くした柱の無一郎とそっくりであった。
無一郎の声は、『3月のライオン』で桐山零役を務めた河西健吾が担当している。幼少期の無一郎と有一郎の声も、同じく河西健吾が担当。感情が見えなかった柱の無一郎の演技とは一変。トゲトゲした口調で責める有一郎や、叫んだり怯えたりする無一郎の感情は、分かりやすかった。
こうした2人の日常は、鬼の襲撃によって破られる。2人の日常に、物音を立てずにぬるっと入り込んできた様子が鬼の恐ろしさを助長させた。鬼が無一郎に襲いかかった瞬間、有一郎が飛び出し、自らの腕を犠牲にして無一郎を救ったのだ。
兄が苦しむ目の前で、「いてもいなくても変わらないようなつまらねえ命なんだからよ」と吐き捨てる鬼に、無一郎は激しい怒りが湧き出る。「それからのことは本当に思い出せない」と言っているように、画面は無一郎の記憶を心象的に映し出す。真っ暗の中に、赤いドロドロした液体が落とされる。それは無一郎の怒りであるかもしれないし、血であるかもしれない。無一郎の感情が、より伝わってきた描写だ。