『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』は“原点回帰”作なのか? 次作以降への課題も

『ワイスピ』第10作は“原点回帰”作?

 しかし、後付けの設定で現れただけでなく、『ワイルド・スピード MEGA MAX』においては描かれるほどのこともなかったという設定のダンテが、シリーズにおいて、『バットマン』の唯一無二の敵といえるジョーカーの地位にたり得るのかという点では、疑問を感じざるを得ないところもある。少なくとも現時点では、ただ表面的な部分でジョーカーのような悪役であり、精神的に問題があるという以上の奥行きが描かれないため、ジョーカーが作品に与えていたような興味深いテーマをシリーズに与えることはできていない。そして、なぜダンテのみが他の悪役以上にドムを追いつめられるのか、納得できる根拠も説得力も存在しないといえよう。

 これでは、本作含め最終章の内容は、ただ常軌を逸した復讐者から大切なファミリーを守るというだけのものに終始してしまうということにならないか。そして、それだけの物語を数作に分ける意味が果たしてあったのかという疑問が生じてしまっても仕方がないのではないだろうか。

 この数作に分けてストーリーを表現するという企画自体は、『アベンジャーズ』シリーズの成功を受けたものだと考えられる。『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023年公開予定)が、主演とプロデューサーを務めるトム・クルーズが『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)に影響されたことによって連作の企画となったように、本作もまた『アベンジャーズ』シリーズを参考にしたものなのだろう。確かに、長年に渡る長大なシリーズを終わらせる物語を描くには、一作では物足りないと思うのも理解できる。

 とはいえ、そこにはシリーズを重ねたことで発生する問題意識を反映させたり、新たなテーマを置くことで、数作のボリュームに相応しい内容を、かたちだけでも創出するべきではないのか。そして、それができた数少ない人物が、シリーズを見つめてきたジャスティン・リン監督だったのではないか。本作の出来から類推すると、彼が離脱したのは、そういった試みが否定されたからだったのかもしれない。

 確かにスケールを無尽蔵に大きくしていき、荒唐無稽で“何でもあり”となったカオティックな内容も、シリーズの魅力の一つだとはいえる。『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)は、そんな要素を自覚的に加速させることによって、シリーズの世界観を破綻させながら限界突破していく異様な内容そのものが、一種の前衛的な見どころになっていたといえよう。しかし、それをシリーズの本質としてしまうのには無理がある。だからこそジャスティン・リン監督は、前作においてスケールアップの姿勢を維持はさせつつも、同時にドムのカーレーサーやメカニックとしての根幹を探るという、地に足のついた物語を希求したのだと考えられる。

 20年以上の歴史を持つ娯楽超大作を終わりに向かわせる内容を、短い期間でまとめ上げなければならなかったルイ・レテリエ監督の立場には同情を禁じ得ないところではあるが、本作に関してはシリーズらしい表面的なシーンを寄せ集め、パブリックイメージとしての『ワイルド・スピード』を提出することで精一杯だったという印象を持たずにおれない。“それらしい作品に仕上げる”といった意味では、近年製作されてほぼそれだけに終始してしまった『スター・ウォーズ』続三部作と同じような印象を受けてしまうのだ。

 “クリフハンガー(絶体絶命の展開で次回へと繋ぐ手法)”もまた、本作においては必然性を感じない試みである。『アベンジャーズ』シリーズでは衝撃的な内容が、深いテーマや用意された複雑な展開へと繋げることで納得できるものになっていたが、本作のそれは、ただそういう企画だからという意図しか感じられない展開のため、そこに意外な驚きが生じることはなかったし、“何でもあり”を強調したことで、登場人物たちの生死についての緊張感も希薄である。

 とにかくスケールの大きいエクストリームな超大作を味わいたい、もしくは出鱈目な展開を笑いながら楽しみたいという観客の要望に応えるという部分において、本作は良い仕事をしたといえるかもしれない。興行的にも成功を収めているのも確かではある。しかしその中身が極めて薄いという点で、長いシリーズを振り返るなかで、後々本作が際立った存在感を放つには、次作で大幅なフォローがない限りは難しいのではないだろうか。

 クリフハンガーを見せてしまった以上、その結果を納得いくものとして見せる責任が生じたのはもちろん、そういう展開をわざわざ描いた意味を、次作で用意することができなければ、シリーズそのものが陳腐なものになってしまいかねない。その意味では、物語上だけでなく“本当の意味でのピンチ”が製作陣に訪れてしまっているといえるかもしれない。願わくば、次作以降は用意周到な脚本を用意し、『ワイルド・スピード』シリーズに相応しく、年月を重ねた意味のあるエンディングを、シリーズを愛する全ての観客にもたらしてほしいものだ。

■公開情報
『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』
全国公開中
出演:ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ジェイソン・モモア、ナタリー・エマニュエル、ジョーダナ・ブリュースター、ジョン・シナ、ジェイソン・ステイサム、サン・カン、ヘレン・ミレン、シャーリーズ・セロン、ブリー・ラーソン
監督:ルイ・ルテリエ
脚本:ジャスティン・リン、ダン・マゾー
提供:ユニバーサル・ピクチャーズ
配給:東宝東和
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