『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』は“原点回帰”作なのか? 次作以降への課題も

『ワイスピ』第10作は“原点回帰”作?

 大ヒットシリーズ『ワイルド・スピード』が、第1作公開から20年以上の時を経て、10作目『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』で、ついに最終章の幕を開けた。このシリーズを終わらせるまでのストーリーは複数の作品によって構成される予定で、前編となる「ファイヤーブースト」を含め、2部作となるか3部作となるかは、現時点において、まだ未定であるという。

 そんな位置付けである本作『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』は、もちろん満を持した体制で臨むものと考えられていたが、思わぬトラブルが発生する。現在のシリーズの核となっていたジャスティン・リン監督が、創作における方向性の違いによって降板するという事態に見舞われたのだ。新たに監督に就任したルイ・レテリエ(『トランスポーター』シリーズ)は、限られた日数のなかで、製作側の求めに応じて脚本を書き換える作業を請け負ったとされている。

 この混沌とした状態のなかで、本作はどのような出来となったのか。ここでは、その評価を率直に記していきたい。

 本作で、ドムことドミニク・トレット(ヴィン・ディーゼル)たち“ファミリー”に襲いかかる敵は、ジェイソン・モモアが演じるダンテ・レイエスという人物。本作の冒頭で描かれるように、ダンテは『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年)に登場していた、敵対する麻薬王の息子であり、ドムらに恨みを持っていたことが明かされている。ものすごいのは、当時の映像をそのまま使用し、編集によってじつはダンテがクライマックスの場面に存在していたことを表現している点である。

 そんなバカな……と思ってしまうが、前作でも死んだと思われていた仲間ハン(サン・カン)が、じつは生存していたという、後付けの展開を用意したように、ここでもまた、じつはこんな人物が紛れ込んでいたのだという、シリーズらしい後付け設定を、今度は差し迫った必然性もなく繰り出すのである。これは、ルイ・レテリエ監督の好きなシリーズ作品が『ワイルド・スピード MEGA MAX』だったことから思いついたアイデアだったのだという。

 シリーズがカーレースと犯罪を題材にした内容から、現在のより荒唐無稽な、アブダビの高層ビルやロシアの軍事基地、宇宙までをも乗用車で駆ける、世界を救うアクション超大作へと舵をきったきっかけとなったのは、『ワイルド・スピード MEGA MAX』からであったのも確かで、その意味では、この作品が本作から見た実質的な“第1作”だったといえるのではないか。そう考えれば、本作は“原点回帰”を試みた内容になっているとも考えられる。

 父の仇を討とうとする復讐者ダンテは、ドムの最も大事にしているファミリーの一人ひとりを亡き者とし、十分に苦しめたうえでドムを殺害するという計画を実行に移していく。ドムのファミリーである、ローマン(タイリース・ギブソン)、テズ(クリス・“リュダクリス”・ブリッジス)、ラムジー(ナタリー・エマニュエル)、そしてハンの4人は、ダンテによってローマへとおびき出され、巨大な球状の核爆弾の出現で都市もろとも命の危険にさらされることになる。追いついたドムやレティ(ミシェル・ロドリゲス)たちも加わり、古都ローマで地獄の玉転がしゲームが展開するところは、バカらしいほどの荒唐無稽さとスケールの大きさが楽しめ、シリーズらしい見どころになっているといえる。

 ドムの最愛の息子である“リトル・B”こと、まだ幼いブライアンも、ダンテの標的となる。こちらは、前作で登場したドムの弟ジェイコブ(ジョン・シナ)が常に側で守り、前作ではファミリーの脅威だった彼が、一転して話の分かる愉快な叔父さんとして、リトル・Bと逃避行を続ける展開が楽しめる。この一連のシーンは、復讐劇のなかの一服の清涼剤として配置されているように感じられる。

 ファミリーの命を狙うダンテは、演じているのがジェイソン・モモアであるだけに、ドムと対等なタフさで渡り合える悪役ではあるものの、同時にいまいち捉えどころのない部分があるのも確かだ。常にドムたちの裏をかく策略家であるのと同時に、必要以上に陽気に振る舞って冗談を連発するかと思えば、死体をもてあそぶサイコな面を見せたりなど、『バットマン』におけるジョーカーのような存在をイメージしているのではないかと思える。そう考えれば冒頭で描かれた、ダンテが水中に投げ出される描写は、バットマンによってジョーカーが薬品タンクに落とされた経緯に沿っているのかもしれない。

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