“バカ騒ぎ”の終局へ 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』の寂しさを含んだ疾走感

『ワイスピ/ファイヤーブースト』の疾走感

 いざ! 最後のバカ騒ぎへ! 『ワイルド・スピード』(2001年)は、ストリートで車をブッ飛ばす若者たちの青春映画として幕を開けた。紆余曲折を経た末に、『ワイスピ』は世界をまたにかける超大作スパイ映画となり、遂に最終章へ突入した。今回ご紹介する『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』(2023年)は、かつてないほど荒々しく、目まぐるしく、雑な部分は本当に雑だが、しかし明らかにクライマックスへ向けて突き進む疾走感がある。なおかつその疾走感は、少しの寂しさを含んでいる。ちょうど週刊連載漫画が最後の戦いに入った時のような感覚だ。シリーズのファンは「ああ、『ワイスピ』が本当に終わるんだな」と、たそがれてしまうかもしれない。

 しかし、それはそれとして、本作は過去イチで無茶苦茶である。そもそも制作時からトラブルばかりが聞こえてきた。ただでさえキャラクターが多いのに、次々と追加されるビッグすぎる俳優、膨れ上がる予算(3億ドルに達したと言われる)、公開延期、そしてシリーズ復活の立役者であるジャスティン・リン監督の降板……現場はコントロール不能な状態に陥っていると、たびたび報道された。そんなグチャグチャな中に投入されたのが、フランスのアクション職人、ルイ・レテリエ監督だ。かつてリュック・ベッソン率いるヨーロッパコープで、『トランスポーター』(2002年)や『ダニー・ザ・ドッグ』(2005年)などの「安い・早い・うまい」のアクション映画を量産し、まだ映画作り自体が手探りだったMCUで『インクレディブル・ハルク』(2008年)を仕上げた人物である。

 そんなレテリエが、今回は映画を空中分解寸前のところで救ってくれている。幾多の修羅場を何とかしてきた職人は、開き直ったのだ。雑なところは雑に。その代わり、しっかりやるところはしっかりやる。この職人的選球眼と同時に、彼は『ワイスピ』の本質もしっかり押さえている。すなわち車で無茶苦茶をやってナンボであろう、粗を丁寧に処理するより、勢いで何とか乗り切ろう、ということだ。

 すでに予告でも明らかになっている通り、今回も大胆な過去改変から物語は幕を開ける。シリーズ5作目の『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年)の悪役には、実はダンテという息子がいて、同作のクライマックスの対決でも現場にいたうえに、ヴィン・ディーゼルらのせいで死にかけていた! しかもそれは完全に狂ったジェイソン・モモアだった! ……と、これまで1ミリも存在しなかった回想シーンから物語が始まるのだ。

 かくしてダンテことモモアの復讐劇が始まるが……今回の俳優面のMVPは間違いなくジェイソン・モモアだ。相変わらず筋肉ムキムキでワイルドを絵に描いたような見た目だが、今回の役どころはド派手な衣装を身にまとい、世界中で凶行と大破壊を繰り返す、ほとんど『バットマン』のジョーカーである。この猟奇マッチョマンという今までいそうでいなかったキャラを、実に活き活きと演じ、物語をグイグイ引っ張っていく。

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