『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』が長尺となった理由 シリーズ回帰作の試みとは
新作を生み出す度に荒唐無稽な描写がグレードアップしていく、カーアクション映画『ワイルド・スピード』シリーズ。その9作目となる『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』では、とうとう乗用車にジェットエンジンを搭載し、空を駆け上っていくという段階に到達してしまった。
続く10作、11作の2部作で、いよいよ終焉を迎えることが発表されている本シリーズにとって、9作目の本作は、長いシリーズの終了を予告する、ゴールまでの最終コーナーに例えられるのではないだろうか。本作から、シリーズの大きな功労者であるジャスティン・リン監督が帰還し、最後の2部作もまた、シリーズに深い理解を持ったリン監督によって完走を果たすと見られている。
近年の『ワイスピ』は、誰もが知る通り、世界的な超大作に成長している。だが、1作目に30代だった出演者のヴィン・ディーゼルは、いま50代半ば。他のキャストも、もちろん高齢化していくので、あと数年で幕が下ろされる判断には、納得せざるを得ないところがある。
ジャスティン・リン監督が初めて手がけた3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)のように、まったく新しい内容でシリーズの刷新を図ったこともあったが、ヴィン・ディーゼルが仲間を引き連れて活躍する内容に回帰することを観客の多くが望んだことは、『ワイルド・スピード MAX』(2009年)以降、うなぎのぼりになっていく興行成績に表れているといえよう。このように、観客がある種の停滞を選び、作り手の側もそれに応じたからこそ、シリーズは終焉を回避できなくなったとも感じられる。
今回、『ワイスピ』ファミリーが請け負うのは、政府の秘密組織のトップである“ミスター・ノーバディ”(カート・ラッセル)の窮地を救う仕事だ。かつては犯罪集団を指揮していたドム(ヴィン・ディーゼル)は、いまや反逆者ではなく、国や世界を守るエージェントのような役割を引き受けている。当初こそ、カスタムカーを題材にアメリカの“走り屋”文化にスポットライトを当て、『ハートブルー』(1991年)を想起させる犯罪潜入アクションを加えた内容だった作品は、スパイチームのアクションへと、舵を切ることとなったのだ。
それは、スケールを増すこととなっていく物語の要請でもあるし、世界的な超大作として多くの人に受け入れられる工夫でもあったはずだ。とはいえ、スケールアップを重ねてきた荒唐無稽なアクション自体は、初期から描かれてきたストリートのカーレースによる“走り屋”文化とは、あまりにも乖離がはなはだしくなってしまったのは事実だ。しかしそのギャップは、逆に観客に面白がられることとなり、本シリーズはある意味で、往年の東映作品『不良番長』シリーズのようなコメディー風味のアクションとしてのジャンルに接近することともなった。本作でジェットエンジンにより、大気圏を超えていく車のアクションもまた、そんな流れを踏襲したものだ。