『メディア王』いよいよ“最後の戦い”へ 三者三様の弔辞にみる会話劇としてのダイナミズム
メンケン(ジャスティン・カーク)が次期アメリカ合衆国大統領に当選したのも束の間、対立するヒメネス(エリオット・ビラー)陣営が選挙結果に異議申し立てを行い、ATNの当確報道を発端にした“奪われた選挙”はアメリカを分断する大混乱へと発展した。ローガン・ロイ(ブライアン・コックス)の葬儀が行われるこの日も、NYは大規模デモの噂が飛び交っている。不安に駆られたラヴァ(ナタリー・ゴールド)はケンダル(ジェレミー・ストロング)に断ることなく子供たちを連れて街を脱出。あらゆる無理難題に付き従ってきた秘書ジェス(ジュリアーナ・キャンフィールド)もケンダルに辞意を伝えた。ケンダルは自身の選択がもたらした結果から目を逸らすことができなくなっている。
もっとも、怒りと怨嗟の声はローマン・ロイ(キーラン・カルキン)には届いていない。練りに練った弔辞を用意している彼は上機嫌。“大統領を選んだ男”として亡き父の偉大な功績に並び立とうとしている。一方、シヴ(サラ・スヌーク)はインドでかさ増しされた会員数を公表するようマットソン(アレクサンダー・スカルスガルド)に指示。選挙結果は承服できないが、リスクを軽減するならどさくさ紛れに今だ。マットソンは言う。「君の国の民主主義は50年。黒人を考慮に入れてないだろ。民主主義の成熟はボツワナと同じだ」。これはアメリカTVドラマ史に残る名セリフが続く『メディア王~華麗なる一族~(原題:サクセッション)』(以下、『サクセッション』)シーズン4第9話『葬儀と政治』(原題:Church and State)の最初の1行目に過ぎない。
ローガン・ロイの棺が教会に運び込まれてから遺族がスピーチを終えるまでの約20分間のシークエンスは、4台のカメラによるワンテイクだという。予想外の出来事に直面する緊迫、感情が理性を超える瞬間の動揺、そしてここには“言葉”が誰よりもまずそれを口にする人間を大きく変容させていく興奮が映し出されている。式次第を無視して最初に演壇に上がったのはローガンの兄ユーアン(ジェームズ・クロムウェル)。ドイツ軍に怯えながらスコットランドからアメリカへと渡った幼少期の記憶、ローガンが妹にポリオを移し、死に至らしめたという罪悪感……葬儀とは故人や他者の知られざる人生が明かされる場であり、ローガンもまた家族、兄妹の宿縁を背負ってきた(貧しさを許せなかった)人物であることがわかる。
しかしユーアンはそんなローガンの強欲を看過できなかった。演じるジェームズ・クロムウェルは1995年のジョージ・ミラー監督作『ベイブ』でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。以後、長身痩躯の厳格な佇まいで悪徳刑事から王族まで幅広い役柄を演じてきた名脇役。ほとんど世捨て人同然である頑迷なユーアンの言葉は真実を突いている。「……私は言わずにはいられない。弟は恐ろしいものを築き上げてしまった。彼はあちこちで世界の端から色を塗り、雲行きを暗いものにして人の心を閉ざさせ、人の中に黒い炎をはびこらせた。非情で意地の悪い厄介な炎を。自分の炉床は温かくても他者は冷やす。自分の穀物は蓄え、他者は飢えさせる」。
ユーアンの思いがけない言葉に動揺したのか、それとも父の死後、哀しみを誤魔化し続けてきただけなのか、続いて演壇に上がったローマンはコントロール不能に陥り、瓦解する。声はかすれ、どもり、涙を流す。これが露悪的な彼の中にある真の優しさだが、パニックに陥った姿はウェイスターのCEOとしては醜態である。長老役員たちはおろか、メンケンも彼を見限った(我が子の狼狽に頭を振るキャロライン(ハリエット・ウォルター)を映しているところにロングテイクメソッドの成果がある)。今シーズン、見せ場の連続で才能を磨かれたキーラン・カルキンは予想外の形でピークに達し、私たちの心を激しく震わせる。
代わりに壇上に立つのはケンダルだ。彼はユーアンに同調して「父はケダモノだった」と切り出すと、こう続ける。「……父にはご存知のように活力があった。すごい力だ。その力は周りを傷つけもした。だが父の力は絶大で……あふれる生命……生き方、あらゆるものを作り出した。そして金も。そう、金も儲けた。金は血液であり酸素。我々が築いてきた文明に命を吹き込むものだ。金はこの国、この世界に流れる血球そのものだ。すべての人を欲望の虜にして野心をかき立てる。所有し、作り、取引し、儲け、築き、革新したいという野心。噴き出す生命の間欠泉を父は望んだ。数々のビルを建て、鉄鋼製のクルーズ船、テーマパーク、新聞、ショー、映画、そして人生も……複雑に絡まった人生だ。父は人生を起動させた。私と3人の兄妹も」。