『合理的にあり得ない』に“抜け感”を加える久実を好演 白石聖の演技の真骨頂は表情にあり
「1000万。1日延長するごとに100万上乗せしていく」
涼子(天海祐希)と過去に対峙した「マジェスティックビューティーラボ」の院長・愛原樹里亜(水野美紀)が、自身の警護と殺害予告をしてきた犯人探しを要求し、札束をドンっとテーブルに置いた。すると、それまで彼女の依頼を受けることを渋っていた涼子が即座に「やりましょう!」と言って、キメ顔を貴山(松下洸平)に向けた。貴山がこちらを向いて「あり得ない」と呆れた顔をすると、間髪入れずに涼子のキメ顔がこちらに映し出された。
これは、『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ・フジテレビ系)第5話のとある場面だ。その間、わずか5秒ほど。率直に言って濃すぎる。涼子や貴山、そして各話のゲストたちのやりとりは、キレもテンポもとてもいいが、それ以上に濃い。実は、そこに抜け感をプラスする大切なキャラクターがいる。それが白石聖演じる諫間久実だ。
久実は涼子の「殺したい奴No.1」の諫間グループの社長・諫間慶介(仲村トオル)の娘。自分のやることをなんでも頭ごなしに否定してくる父に反感を持ちながらも、渡されたブラックカードで買い物をしているお気楽な女子大生だ。第2話で家出を決行するも、他人をすぐ信じてしまう性格が災いし、誘拐されてしまう。涼子と貴山は、そんな久実を救い出し、その上、涼子は「自分の目で人を見抜く力を付けなさい」とアドバイスしたのだった。その後、涼子に感銘を受けた久実は上水流エージェンシーへ押しかけ、働かせてもらっている。
頭脳明晰な涼子とIQ140の天才である貴山のやりとりは、理路整然としていて隙がない。そこがこのドラマの見どころで、「すごいなあ」という気持ちとともに笑えてきてしまうところなのだが、久実はある意味でそこに風穴を開けてくれる。第5話に登場した樹里亜は、第4話で2000万以上するネックレスを貴山にレプリカにすり替えられている。そんなことはつゆ知らず、これみよがしにネックレスをつけて上水流エージェンシーにやってきた樹里亜。事情を知った久実はネックレスを見た途端、吹き出してしまい、思わず「安物なのに」と呟いてしまった。樹里亜のネックレスが偽物なのは、もちろん視聴者の私たちも知っている。だから、事実を口走ってしまった久実と一緒になってクスクス笑ってしまうのだ。この笑いは、会話劇に感心して出てくるものとは違う。こうして久実はこのドラマに新たな”笑い”を提供しているのではないだろうか。