【ネタバレあり】『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』結末が暗示するもの

『GotG3』の結末が暗示するもの

 ジェームズ・ガン監督は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを手がける前に、『スーパー!』(2010年)という、皮肉なヒーローコメディ映画を監督している。これは、アメコミヒーロー作品に影響された中年男が、コスプレをして自警活動をおこない、危険なトラブルに巻き込まれて現実の厳しさを思い知るといった内容で、シニカルな目線を用いることでヒーロー映画を茶化すようなものだった。『スーパー!』は、このような皮肉な笑いを通して、現実に向き合うことの厳しさと重要性を描いたといえる。

 私は、これまでの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズに、どこか居心地の悪い違和感を抱いていたが、その理由は、傑作『スーパー!』において、オタク的な夢と厳しい現実という関係を対比させ、ヒーロー映画全体に切れ味のある批評をおこなったガン監督が、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』では荒唐無稽な夢を改めて好意的に描いたという点だった。『スーパー!』が映し出した冷徹ともいえるメッセージは、現実と向き合えない人々にエールを送る、逆説的な優しさだと解釈することもできる。対して『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズは、多様性の重要性を描く一方で、現実からの逃避を正当化してしまう内容にもなっていたように感じるのだ。

 画期的な内容だった『スーパー!』の興業成績が芳しくなく、ヒーロー映画における夢と現実の部分でテーマが後退した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの方が大ヒットを達成したという事実は、以前は映画界のパンクな悪童ともいえたガン監督が、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の規律の枠に収まる優等生になってしまったように感じられたのである。

 だが、本作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』において、ジェームズ・ガン監督はついに、ピーター・クイルを地味な現実のなかに放り込む結末を描くことによって、『スーパー!』のテーマに一部立ち戻る選択をしたのだと考えられる。ここではピーターにとって、銀河の荒くれやモンスター、軍隊との戦いよりも、実家のご近所とのトラブルや祖父との交流など日常的な生活の方が、さらに難しいものだとして表現されている。

 それはまさに、コミックや映画などの虚構に逃げ込んで現実の生活を充実させることを回避し続けた、孤独な中年男性の現実の姿そのものだといえるのではないか。そう解釈すれば本作は、『スーパー!』や児童小説『クマのプーさん』、日本のアニメーション作品『新世紀エヴァンゲリオン』などにも共通する、“成長して現実に向き合おう”という、苦いながらも前向きなテーマ性を、シリーズ全体に与えることになったと考えられる。おかげで、私が個人的に覚えていたシリーズへの違和感も、本作ですっきりと解消され、全体が納得できる内容に解釈し直す余地が生まれたことになる。

 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズを象徴していたのは、懐かしいヒット曲をそのまま劇中で流すという演出だった。これは、ピーターが自分のウォークマンとヘッドフォンで、母親の遺したカセットテープの曲を聴いているというかたちで、ストーリー上表現されていた。それはまさに、自分の世界に引きこもり、現実を捨てて母親との思い出のなかに生きるという、後ろ向きな姿だと感じられる。

 それら地球の音楽が、家族のようになったガーディアンズたちと共有されるようになっていくというのが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第1作の結末だった。本作では、その構図が強調され、ついにはピーターが離脱してなお、彼の置き土産として銀河の人々に愛されるシーンが描かれた。つまり『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の世界はすでに、メタフィジックな意味でピーターが介在せずとも成立する、独立した世界に変貌を遂げたのである。逆に銀河がピーターの逃げ場でなくなったことで、彼は帰還せざるを得なくなったともいえるかもしれない。

 だが、ピーターがその世界を必要としなくなっても、本作の観客たちが必要とするのならば、作品を反芻したり、新生ガーディアンズの戦いや交流を夢想することで、観客はいつでもそこへ帰ってくることができる。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズは、いま現在も厳しい現実に直面する人たちや、本作のロケットのように過去の悲しい出来事に心を蝕まれた人々のために、永久に存在する自由な逃げ場として開放されたのである。

 その意味で、本作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』は、MCUから離脱するガン監督の、観客へのお別れのメッセージであると同時に、監督や主人公ピーターから、観客たちに世界を丸ごと受け渡す儀式だったと受け取ることもできるのだ。

■公開情報
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』
全国公開中
監督:ジェームズ・ガン
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:クリス・プラット、ブラッドリー・クーパー、ヴィン・ディーゼル、ゾーイ・サルダナ、カレン・ギラン、デイヴ・バウティスタ、ポム・クレメンティエフほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©Marvel Studios 2023

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