今田美桜、時代を代表するヒロインに 『東京リベンジャーズ2』で見せる表情の豊かさ
映画の“ヒロイン”という存在を想像したとき、何人もの女性俳優の顔が思い浮かぶ。これは世代によって違うものなのだろう。1980年代には80年代の、90年代には90年代の、2000年代には2000年代の、それぞれの時代を代表するヒロインがいるのだから。2010年代後半から2020年代にかけても、映画でヒロインのポジションを担うことができる存在は次から次へと登場してくる。2020年代だけに絞っても、かなりの顔ぶれが並ぶはずだ。しかし、いまこの瞬間にかぎっていえば、今田美桜しか考えられないのではないだろうか。彼女がヒロインを務め、2021年に大ヒットを記録した『東京リベンジャーズ』の続編が封切られたのだ。
続編である『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編』は、前編『-運命-』と後編『-決戦-』からなる2部構成の作品だ。つまり、2本セットで一つの話が描かれている。第1作目と比較すると、かなりスケールの大きなものであることが分かるだろう。念のために記しておくと、本作は北村匠海が演じる主人公・タケミチが悲惨な現在を変えるため、過去に戻って“リベンジ”をするというものだ。この「悲惨な現在」というのは、うだつの上がらない武道の日常のことであり、最愛の人の死を指している。最愛の人というのはもちろん、今田が演じるヒロイン・橘日向、通称ヒナのことである。
先だって筆者は6月公開の後編『-決戦-』まですでに観ているのだが、ヒナの立ち位置は第1作目とほとんど変わらない。彼女の死をどうにか回避するため、武道は自らの命を賭して過去へ。現代でヒナの死に関与している東京卍會に接触し、野蛮すぎる男たちの世界で奮闘することになる。原作マンガとこの映画とを比較したとき、映画は原作以上に“男たちの物語”にフォーカスしている印象が強い。主演の北村を筆頭とする若手スターが勢揃いなのだから、そういった印象を受けるのは当然といえば当然なのだろう。しかしだからこそ違和感を覚えてしまうのが、ヒロインの死が物語の起動装置にしかなっていないこと。物語の進行に合わせて武道と行動をともにしていると、彼の目的は未来のヒナの死を回避することではなく、東京卍會の面々の中でどう奔走するのかに主眼が置かれている気がしてくる。まずは目の前のことをどうにかしないと明るい未来はないので仕方のないのだが、事実そう感じてしまうのだ。
ここで重要なのが、このヒナを誰が演じるのかということである。前作と同様に、ヒナの出番は決して多いとはいえない。ただ、主人公・武道の行動の根の部分には、彼女の存在がある。笑顔がある。二度と見たくはない悲しげな顔がある。シーンに合わせてくるくると変わる今田の表情は素晴らしい。顔の筋肉が柔らかいのか、彼女の表情は非常に豊かだ。笑顔一つをとっても、そこにはバリエーションがあり、グラデーションがある。その表情がスクリーンに大きく映し出されたとき、それを見つめる武道と私たち観客は同化する。後編『-決戦-』は、終始ド派手な乱戦だ。多くの人間が激しく入り乱れるため、正直なところ誰が誰だか分からなくもなってくるというもの。だが武道が叫び声を上げるたび、たちまち“ヒナ=今田美桜”の笑顔や泣き顔がよみがえってくる。ヒナがそこにいるわけではなく、彼女の顔を捉えた映像が回想的に挿入されるわけでもないのにだ。ヒナの存在の重要性を観客に刷り込む演出と、今田の表情によるパフォーマンスが高次元で結びついているからだろう。
今田といえば、『悪女(わる)〜働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?〜』(2022年/日本テレビ系)ですでに民放の連続ドラマで主演を務めており、現在は日曜劇場『ラストマンー全盲の捜査官ー』(TBS系)に主要キャラクターの一人として出演中。名実ともにいまもっとも勢いのある俳優の一人だと証明してみせているところだ。先述しているように『東京リベンジャーズ』は男性の若手スターが勢揃いで、ヒナを演じる俳優には、東京卍會の面々を演じる彼らと拮抗する力が求められる。これに応えてみせている今田こそ、いまこの時代を代表するヒロインだといえるだろう。それに、同じくヒロインを務めた映画『わたしの幸せな結婚』は公開初日から1カ月半が経つものの、いまだに話題作の一つとなっている。今田美桜という存在は、これから語り継がれるものになっていくかもしれない。
■公開情報
『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』
全国公開中
『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』
6月30日(金)公開
出演:北村匠海、山田裕貴、杉野遥亮、今田美桜、眞栄田郷敦、清水尋也、磯村勇斗、間宮祥太朗、吉沢亮、永山絢斗、村上虹郎、高杉真宙
原作:和久井健『東京卍リベンジャーズ』(講談社『週刊少年マガジン』連載中)
監督:英勉
脚本:髙橋泉
配給:ワーナー・ブラザース映画
©和久井健/講談社 ©2023映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編」製作委員会
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