『らんまん』松坂慶子の毅然とした態度に滲む愛情 『まんぷく』“ぶしむす”との共通点も

『らんまん』松坂慶子の言動に滲む愛情

 『らんまん』(NHK総合)第22話で、投獄された万太郎(神木隆之介)を迎えにきたタキ(松坂慶子)の顔は驚くほどに晴れやかだった。家のものに多大な心配をかけた万太郎を叱るでもなく、無事で良かったと抱きしめるでもない。毅然とした態度で、牢獄の中にいる声明社の人たちに後ろ髪を引かれる万太郎に前を向くよう諭す。

「何かを選ぶことは、何かを捨てることじゃ」

 それはまるで、やがて自分たち峰屋の人間を“捨て”、植物研究の道に進むであろう万太郎の背中を押すかのように。

 万太郎の祖母であり、峰屋の実質的な当主であるタキ。幕末から明治へという時代の大転換期にあって、旧来のしきたりや伝統を重んじるタキは万太郎の行く手を阻む存在でありながら憎むことはできない。それどころか、峰屋の看板を守るためなら進んで悪役を買って出るような粋を感じさせ、観る人の心を鷲掴みにする。芸歴半世紀を超える名俳優・松坂慶子のなせる技だ。

松坂慶子の“桐子さん”をいつまでも胸に 『一橋桐子の犯罪日記』が描いた“自由”の喜び

刑務所に入るための活動=“ムショ活”に励む主人公・桐子(松坂慶子)に、誰もがエールを送り続けたNHK土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日…

 「刑務所に行きたいという言葉を聞いて、『この人、本気なんだな』と思わせる人は松坂さんしかいない」と語ったのは、2022年に放送されたドラマ『一橋桐子の犯罪日記』(NHK総合)でヒロインに松坂をキャスティングしたプロデューサー・宇佐川隆史だ。(※)同作は“高齢者犯罪”をテーマにしたヒューマンコメディで、松坂は刑務所に入るための活動=ムショ活に励む天涯孤独な主人公・桐子を演じた。

 お金も身寄りもなく、唯一の親友にも先立たれ、まだ見ぬ塀の向こうに吸い寄せられてしまう桐子。いくらでも悲壮感溢れる演技で彼女を可哀想な高齢者に見せ、同情を買うことができそうなのに松坂はそうしなかった。宇佐川が言うように、生きるため「仕方がなかった」ではなく、生きるための手段として考え抜いて犯罪を「選んだ」と思わせる演技で臨んだのだ。

 また、かわいいと言ったら失礼にあたるかもしれないが、ベテランもベテランなのに不思議と親しみのある松坂が演じたことで、桐子というキャラクターがとてもチャーミングに仕上がっていたのも印象深い。ムショ活を始めたはいいが、不器用で怖がりなものだから失敗ばかりする桐子のドタバタ劇が、松坂のコメディセンスも相まって人気を博した。ここで重要なのは、桐子本人はあくまでも大真面目だということ。コメディとはいえ、本人がただふざけているように見えたら人は笑えない。目的を果たすため、あまりに一生懸命な姿が時として滑稽に見えるからこそ面白いのだ。

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