神木隆之介は歴代朝ドラの中でも珍しい主人公? 『らんまん』描き続ける“自由”とは何か

神木隆之介は珍しい朝ドラの主人公?

「おまんらふたり、夫婦(めおと)になれ」

 NHK連続テレビ小説『らんまん』第17話、画面の前で視聴者が固まったひとことである。この衝撃的な一言を発したのは主人公・万太郎(神木隆之介)と綾(佐久間由衣)の祖母・タキ(松坂慶子)。じつは万太郎と綾は姉弟でなく、従姉弟だったのだ。一瞬、朝ドラか韓国ドラマか混乱する展開ではあったが、タキのこの言葉で物語は大きくうねりだす。

 第4週のテーマをひと言で表すと“自由”だろう。

 まず万太郎。幼い頃から植物に魅せられ、植物学の本を読むために誰よりも勉学に励み、金に糸目をつけず学術書や顕微鏡を買い、東京の博覧会に家業である酒蔵の酒が出品された際には植物学の権威にも会いに行く。起きている時間のほとんどを植物について考えてきたにもかかわらず、彼にはその道を歩む自由がない。なぜなら万太郎は、酒蔵・峰屋の当主として蔵の酒の味を守り、使用人たちの生活を保障せねばならないからだ。

 万太郎の姉として育てられた綾は幼少時から酒造りに強い興味を持つ。少女時代にこっそり蔵に入り“穢れ”とされても彼女はめげない。酒を造る工程に思いを持ち続け、蔵人・幸吉(笠松将)に麹のことを教わりながら、峰屋の銘酒・峰乃月とはひと味違う酒を造ってみようと試みる。が、彼女には誰よりも好きな酒造りの仕事で陣頭指揮を執る自由がない。それは綾が女性だからである。

 幼い頃に身体が弱かった万太郎のお目つけ役を命じられて以来、つねに彼に寄り添い、どんな時もフォローをしてきた峰屋番頭の息子・竹雄(志尊淳)。そもそも竹雄には万太郎のお目付け役を断る自由はない。余程のことがない限り、将来は番頭として峰屋を支えることが決まっており、少年時代から秘めている綾への想いを口にすることも叶わない。時代が江戸から明治に変わってもそこには身分制度の名残が存在するからだ。

 トランプゲームであれば互いのカードを交換することでそれぞれの着地点も見えるだろうがこれは人生。家、性別、身分……3人が背負ったものに縛られ苦悩する中、明治という時代に“自由”によって人生が変わった2人の男が現れる。

 ひとりは自由民権運動家の早川逸馬(宮野真守)。国の主権は民衆にあると説き、高知の人々の前で政治を語る早川は「人は自分がやりたいことをする自由がある」と万太郎にもアツく述べる。そのカリスマ性溢れる佇まいは民衆を熱狂の渦に巻き込むロックスターのようだ。

 もうひとりはジョン万次郎こと中濱万次郎(宇崎竜童)。少年期に漁の途中で漂流し捕鯨船に助けられた中濱は、アメリカの捕鯨船船長の家で暮らし、英語と彼の国の“自由”を学んだ。だが、帰国後はアメリカのスパイと疑われ、誰よりも英語が堪能であるのにペリーやハリスとの交渉の場に出ることも許されず、晩年は手放した“自由”を憎み、気の病に臥せって表舞台から姿を消す。

 “自由”に希望と未来を見出す早川と“自由”に縛られ未来を奪われた中濱。対照的ともいえるふたりの“自由”との向き合い方に対峙した万太郎は自分にとっての“自由”とはなにかと考え、ある決断をする。

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