原作読者こそ鑑賞マスト? 『名探偵コナン 黒鉄の魚影』は見事な取捨選択がされた一作に
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の快進撃が止まらない。4月14日の公開から10日間で58億円を突破し、目標とされている興行収入100億円も確実視されている。さらに各種レビューサイトやSNSでも軒並み高評価を受け、まさに興行・批評の両面から成功し、過去のシリーズ作品の中でも屈指の名作という評価を受けようとしている。今回は今作の見どころや、気になった点などを簡単にまとめたい。
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』は『名探偵コナン』の劇場版シリーズ26作目。黒の組織によって体が小さくなってしまった江戸川コナンと灰原哀をはじめとする一行は、訪れた東京八丈島の近海で、パシフィック・ブイと呼ばれる新施設の事件に巻き込まれる。さらに黒の組織と遭遇し、コナンたちはかつてない危機に直面する。
今作の最大の見どころは多彩なキャラクターたちだ。原作の人気キャラクターたちが登場するオールスター作品となっており、まさに年に1回のお祭りというべき作品に仕上がっている。特にヒロインとして描かれている灰原哀の涙や、さまざまな覚悟を描くにあたって、絶対にそこで観客を魅了する、という気概すら感じるような映像表現だった。
ここに立川譲監督の作家性も見受けられる。立川監督は熱狂を生み出した『BLUE GIANT』のも監督も務めており、ジャズをテーマとした作品の魅力を最大限発揮するために、音響監督を兼任して映像のみならず音も追求していた。作品の強みを理解し、ジャズ音楽とキャラクターの熱量という武器を最大限に押し出して観客の心を掴むことに成功した。その結果、こちらも多くの絶賛意見を集め、興行収入10億円を突破するなど批評・興行の両面で結果を残しており、2023年を象徴する監督の一人になったと言えるだろう。
今作に関してもキャラクターの魅力を全面に押し出すことで、コナンファンが求める作品を作り上げている。灰原哀や安室透、赤井秀一などの人気キャラクターの共演のほか、蘭の格闘シーンや、映画ではお馴染みとなった阿笠博士のなぞなぞなど、コナンのお約束もまとめている。それだけに若干、物語が渋滞してしまっている印象も受けるが、観客が何を求めているのか、しっかりと把握し、その要望に応えながら魅力を120%発揮するような作品を制作するということでは、まさに見事な取捨選択がなされた作品だ。