志尊淳演じる竹雄に詰まった『らんまん』の時代性 視聴者の共感を呼ぶ主体性不足の問題

竹雄に詰まった『らんまん』の時代性

 江戸から明治に時代が変わり、身分制度がなくなったことで、これまで主人に受動的であった者たちも能動的に生きなくてはいけなくなった。ジェンダーの問題は令和のいまも依然として残っているが、竹雄のような問題はおそらくこの時代特有のものだろう。そこをスルーしないで描いていることが興味深い。と同時に、身分制度特有であろう主体性不足の問題は、いつしか身分制度とは関係なくても人の心を支配し、今でも他者に依存して自分が何をしたいのかわからない人も少なくない。だからこそ竹雄に共感を寄せる視聴者も多いのではないだろうか。

 お金持ちなうえ天才で、平凡な庶民にはちょっと取り付く島がない万太郎は、寿恵子の屋台で売っているかる焼きをひとつ買うが、竹雄の分を買うことはない。お坊ちゃんゆえ気が利かないかと思えば、別の場では竹雄の好きなものを食べるといいとか、おみやげに好きなものを買うといいとか気前がいい。もしかしたら、安価なかる焼きよりも高価なものを竹雄が喜ぶと思っているのだろうか。かる焼きをひとつ買って渡す、あるいは半分こにする配慮のなさは万太郎と竹雄の身分の違いを表しているようにも思える。

 竹雄の苦しみはほかの場面で十分過ぎるほど描かれている。万太郎と竹雄の間に亀裂が入るも牛鍋ひとつで仲直りすることもあるのだが、それでもどこか解決しない竹雄の心のもやもやが、かる焼きをなぜ竹雄の分まで買わないのか、という視聴者のもやもやと重なるようで、竹雄の解決しない気持ちが言葉ではなく実感できる。そんな気さえした。

 そこへ、寿恵子がひとつ菓子を「お土産です」とサービスする。万太郎への贔屓ではなく、使用人の人へ、という気遣いだったら、万太郎のどこか欠けた部分を寿恵子がカバーしているようで、完璧だと思うがどうだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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